弱酸の酸成分0.100 mmolを含む水相40.0 mLを、有機相10.0 mLで一回抽出します。水相のpHと酸のpKaはともに4.60、中性HAの分配係数KDは12.0です。有機相には何mmol回収でき、初期量の何%になりますか。
答えは0.0600 mmol、回収率60.0%です。pHから水相のHAとA⁻の割合を決め、酸全体の濃度比を求め、相体積を掛けて量に直すと導けます。
教材用の架空の弱酸HAを考えます。水相では HA ⇌ H⁺ + A⁻ と電離し、中性HAだけが有機相にも分配されるモデルです。A⁻は水相にだけ存在し、有機相でのHAの二量化やイオン対の抽出は含めません。H⁺は水中の水素イオンを簡潔に示す略記です。
| 与える条件 | 値と意味 |
|---|---|
| 水相のpHと酸のpKa | ともに4.60。抽出後も緩衝液によってpHを固定 |
| 中性HAの分配係数 KD | 12.0。温度・溶媒条件を固定した濃度比 |
| 平衡後の相体積 | 水相40.0 mL、有機相10.0 mL |
| 最初の全酸量 n₀ | 0.100 mmol。酸成分は最初すべて水相にある |

1.初期全量を、水相と有機相の酸成分へ分ける
液液抽出は、混ざり合わない二つの液体の間へ溶質を分ける分離です。ここでは水相をa、有機相をoと書きます。液体が上下二層になる場合、下になるのは密度の大きい方です。有機相が必ず上になるわけではありません。以下の図は二相を別々の欄に置いて比較します。
角括弧[HA]はHAの物質量濃度です。この計算では薄い溶液の酸塩基平衡を濃度で扱う近似を使います。mMはmmol/Lなので、濃度にLを掛けるとmmolになります。酸成分の全量とは、HAであってもA⁻であっても一つずつ足した量です。
2.pHから水相の形を決め、全酸の濃度比Dへ進む
D = [HA]o[HA]a + [A⁻]a
KDは中性HAどうしの濃度比です。Dは酸成分の全濃度どうしの比で、このモデルでは水相の分母にHAとA⁻の両方を数えます。有機相にはHAだけなので、どちらの式も分数の上側は有機相のHA濃度です。同じ単位の濃度を割るため、KDもDも無次元です。
与えたpHは、水相でHAとA⁻がどの比で存在するかを決めます。この薄い溶液の濃度近似では、酸塩基平衡の式Ka=[H⁺]a[A⁻]a/[HA]aを使います。pH≈−log₁₀[H⁺]、pKa≈−log₁₀Kaとして整理すると、次の比になります。ここで対数中の濃度はmol/Lで表した数値です。
今回は104.60−4.60 = 1
水相にはHAとA⁻が同じ濃度ずつあるので、水相の全酸のうち中性HAの割合は1/(1+1)=1/2です。これをαHA,aと書きます。一般にはαHA,a=1/(1+10pH−pKa)。この段階の分母は水相の酸だけで、有機相の酸はまだ含めません。
有機相にはHAだけがあり、その濃度は水相のHAの12倍です。水相の全酸濃度を基準にすると、その中の1/2だけがHAなので、全酸の濃度比はKDに水相のHA割合を掛けます。
ペンタ中性HAの比が12なのに、酸全体では6。HAが有機相へ行きにくくなったの?
イコール中性HAどうしの比KDは12のままです。Dの水相側にはA⁻も加えます。今回は水相の分母が2倍になるので、全酸の濃度比は6になります。
ペンタ水相の酸の半分がA⁻なら、全部の酸の半分もA⁻?
イコールそれは分母が違います。「水相の酸」だけなら半分ですが、有機相にもHAがあります。二相を合わせた全量に対する割合は、後で物質量を求めてから数えましょう。

3.濃度比に体積を掛けて、回収量へ進む
水相の全酸濃度をca,Tとします。TはHAとA⁻を合わせたtotal(全体)です。有機相の全酸濃度はD倍なので、co,T = D ca,T。各相の物質量は濃度×体積で、最初の酸成分は二相へ分かれた後も合計が同じです。
= ca,TVa + Dca,TVo
= ca,T(Va + DVo)
したがって、水相の全酸濃度は0.100 mmol ÷(0.0400 L + 6.00×0.0100 L)= 1.00 mmol/Lです。その半分ずつがHAとA⁻なので、[HA]a = [A⁻]a = 0.500 mM。有機相では[HA]o = 6.00×1.00 = 6.00 mMになります。

ペンタDが6なら、有機相へ行く割合は6÷7じゃないの?
イコール6対1は濃度の比です。量の比には体積を掛けるので、有機相対水相は6×10対1×40、つまり60対40になります。
ペンタ60と40を足した100のうち60だから、回収は60%?
イコールそうです。二相の体積が等しいときは6対1がそのまま量の比になりますが、今回は有機相の体積が小さい分を入れる必要があります。
有機相へ移った割合をEとすると、E = no/n₀です。ここでいう回収率は平衡後の有機相にある酸成分の割合で、取り出し作業の損失は含めません。
有機相:0.100×0.600 = 0.0600 mmol
水相:0.100−0.0600 = 0.0400 mmol
EではmLが分子と分母から消えるので、体積を両方mLでそろえたまま割合を求められます。一方、濃度から物質量を出すn=cVでは、mMを使うなら体積をLへ直します。
4.求めた量を、二つの濃度比と全量へ戻す


Dの検算:6.00÷(0.500+0.500)= 6.00
量の検算:0.0200+0.0200+0.0600 = 0.100 mmol
pHは水相での形の比を変えます。このモデルではpHを上げるとA⁻の比率が上がり、Dは小さくなります。同じ温度・媒体条件の中性HAに与えたKDと、酸成分全体を数えるDを分けると、「何が変わったか」を説明できます。実際の溶媒や溶質で別の化学形も存在するなら、ここで省いた種も各相の全濃度へ加える必要があります。
5.自分で確かめる:pHを1だけ上げたら?
同じHA、相体積、初期全酸量について、別の一回抽出で水相をpH 5.60に緩衝固定します。KDは12.0です。①水相の[A⁻]/[HA]、②D、③有機相への回収率と回収量を求めてください。条件はここまでと同じです。
解答 ①比は105.60−4.60 = 10。②D = 12/(1+10)= 12/11。③E = {(12/11)×10}/{40+(12/11)×10} = 3/14 ≈ 0.214。したがって回収率は約21.4%、回収量は0.100×3/14 ≈ 0.0214 mmolです。
水相の全酸濃度は約1.964 mM、[HA]aはその11分の1で約0.1786 mM、[A⁻]aは約1.786 mM。有機相の[HA]oは約2.143 mMなので、KD = 2.143/0.1786 ≈ 12、D = 2.143/1.964 ≈ 1.091と戻せます。pH上昇で全酸が有機相へ移る割合は減りましたが、中性HAのKDが12から変わったわけではありません。

最初の問いへ戻ると、この条件の一回抽出は水相の形をpHで決める → D=KDαHA,a → 量比D Vo対Va → 回収量n₀Eの順に解けます。pHだけ、またはKDだけを回収率と読まず、各比が何を分母にするか確かめましょう。
参考資料
David Harvey, Analytical Chemistry 2.1, §7.7 Liquid-Liquid Extractions:Partition Coefficients and Distribution Ratios、酸塩基平衡を伴う抽出、式7.8–7.11。定義と平衡の枠組みを参照し、本文・数値例・図は独自に構成しています。


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