液液抽出を2回に分ける理由:残る割合を掛けて回収量を比べよう

分析化学
スポンサーリンク

溶質Sを0.300 mmol含む水相60.0 mLから、有機溶媒を合計30.0 mL使って抽出します。平衡での有機相の濃度が水相の4.00倍になるとき、30.0 mLを一回で使う場合と、新しい15.0 mLずつ二回に分ける場合では、回収量はいくら違うでしょうか。

一回では0.200 mmol(66.7%)、二回では0.225 mmol(75.0%)。同じ総溶媒量でも二回の方が0.0250 mmol多く回収できます。各回の水相に残る量を求め、その残量から次の抽出を始めると、この違いを計算できます。

共通条件今回の値・扱い
水相体積 Vₐ各回とも60.0 mL
最初の溶質量 n₀0.300 mmol、最初はすべて水相にある
有機溶媒の総量30.0 mL
分配比 D4.00、各回の平衡で同じ値
比較A新しい30.0 mLで1回
比較B新しい15.0 mLずつ、別々に2回

各回は平衡に達し、平衡後の相体積は与えた値のまま、取り分けによる損失や相の持ち込みはないとします。温度・溶媒条件を固定し、Dを変える反応がある場合はその条件も固定します。ここで計算する回収率は、有機相へ移った量の初期量に対する割合です。

ペンタとイコールが閉じた小瓶とノートを前に、溶質の量について考える学習場面。
ペンタとイコールと、残った量・回収した量をノートで追ってみましょう。

1.水相の残量を、次の回の出発量にする

混ざり合わない水相と有機相へ、溶質Sが分かれるモデルを使います。分配比Dは、平衡時の有機相の全溶質濃度を水相の全溶質濃度で割った値です。与件のD = 4.00は、同じ単位で比べた有機相の濃度が水相の4倍になるという意味です。濃度を量にするには、それぞれの相体積も必要です。

D = 有機相の全溶質濃度 co水相の全溶質濃度 ca = 4.00

2回に分ける場合、1回目に溶質を受け取った有機相を取り分け、残った同じ水相を溶質を初め含まない新しい有機溶媒と平衡にします。使用済みの有機相をそのまま戻すことと区別しましょう。

水相にある量を全部取れないのは、平衡時にも水相の濃度がゼロにならないからです。有機相を分けた後には、そこへ移った溶質は次の回へ持ち越しません。一方、同じ水相には残量があり、この残量と新しい有機溶媒との間で、もう一度D=4.00を満たす配分を求めます。

2.濃度比と量収支から、一回の残存率qを作る

ある回の出発時に水相へある量をn前、平衡後に水相へ残る量をn後とします。有機相へ移った量はn前−n後です。平衡時の水相濃度をcaと置くと、有機相濃度はDca。量の保存から式を組み立てます。

n前 = caVa + DcaVo
n後 = caVa
残存率 q = n後n前 = VaVa + DVo

qは「その回の出発量」のうち、水相に残った割合です。濃度caは割り算で消えます。Dは無次元で、体積を同じ単位にそろえればqも無次元になります。有機相へ移る割合は1−qです。

ペンタ

Dが4なら、水相に残るのは1÷5になる?

イコール

そのまま1対4になるのは二相の体積が等しいときです。Dは濃度比なので、量にはそれぞれの体積を掛けます。残存率は水相の体積を、Vₐ+DVₒで割ります。

ペンタ

有機溶媒15 mLなら、4×15が60で、水相60 mLと同じ?

イコール

そうです。水相にある量と有機相へ移る量が同じになり、その回の残存率は60÷(60+60)= 1/2になります。

3.30 mLを一回で使う場合

qA = 60.060.0 + 4.00×30.0 = 1/3
水相に残る量 = 0.300×1/3 = 0.100 mmol
有機相へ移る量 = 0.300−0.100 = 0.200 mmol
回収率 = 0.200/0.300 = 2/3 ≈ 66.7%

濃度へ戻すと、水相は0.100 mmol/0.0600 L ≈ 1.67 mM、有機相は0.200 mmol/0.0300 L ≈ 6.67 mMです。丸める前の値で割るとD = 4.00に戻ります。濃度は4倍でも、有機相の体積が半分なので量は2倍になります。

4.新しい15 mLで二回、残る量を順に掛ける

15.0 mLを使う一回の残存率は、q = 60.0/(60.0+4.00×15.0)= 0.500です。1回目の後、水相には0.300×0.500 = 0.150 mmolが残ります。1回目の有機相が受け取った量も0.150 mmolです。

2回目の出発量は、残った0.150 mmolです。この水相を新しい15.0 mLの有機溶媒と平衡にすると、その半分0.0750 mmolが水相に残り、もう半分0.0750 mmolが2回目の有機相へ移ります。

水相の量が初期0.300mmolから新しい15mLで0.150mmol、さらに新しい15mLで0.0750mmolへ減る。
図1 矢印のたびに、直前に残った水相量へ1/2を掛けます。2回目は0.300 mmolからやり直すのではなく、0.150 mmolから始まります。
二回後の残量 = 0.300×0.500×0.500 = 0.0750 mmol
初期量に対する残存率 = 0.500² = 0.250
合計回収量 = 0.300−0.0750 = 0.225 mmol
回収率 = 1−0.250 = 0.750 = 75.0%
ペンタ

毎回50%取れるなら、2回で50%+50%、全部取れるの?

イコール

その50%の分母は「その回の出発量」です。1回目は0.300 mmolの半分、2回目は残った0.150 mmolの半分なので、取れる量は違います。

ペンタ

最初の0.300 mmolを分母にそろえると、2回目の0.0750 mmolは25%だね?

イコール

その通りです。初期量に対する回収は50%+25%で75%です。残る量から考えても、1/2×1/2で初期量の1/4が残ると確かめられます。

同じ初期0.300mmolを、水相・一回目有機相・二回目有機相へ同縮尺で配分。水相0.300、0.150、0.0750。
図2 棒の全長を初期0.300 mmolにそろえています。2回目では水相の部分だけを半分に分け、すでに取り分けた1回目の有機相0.150 mmolは変えません。
1回目回収0.150/0.300は50%、2回目回収0.0750/0.150も50%。初期0.300を分母にそろえると50%と25%で75%。
図3 50%という数を足す前に分母をそろえます。各回の回収割合は同じでも、初期量に対する2回目の寄与は小さくなります。
時点水相に残る量その回の有機相へ移る量
初期0.300 mmol—
1回目の後0.150 mmol0.150 mmol
2回目の後0.0750 mmol0.0750 mmol

量を全部足す検算もできます。最後の水相0.0750 mmol + 1回目の有機相0.150 mmol + 2回目の有機相0.0750 mmol = 0.300 mmol。さらに、1回目は水相2.50 mMと有機相10.0 mM、2回目は水相1.25 mMと有機相5.00 mMで、どちらも濃度比は4.00です。

総有機溶媒30mLを1回使用するAの回収66.7%、新しい15mLずつ2回のBの回収75%を比較。
図4 同じ総溶媒量で回収量を比較します。水相に残る量を初期量から引くと、一回0.200 mmol、二回0.225 mmolを得ます。

したがって、二回に分けたときの増分は0.225−0.200=0.0250 mmolです。回収率は66.7%から75.0%へ、丸め前の値で約8.33パーセントポイント上がります。ここで比べた溶媒の総量は、どちらも30.0 mLです。

5.何が二回の差を生む?

新しい有機溶媒は溶質を含まない状態から始まるため、残った水相の溶質をまた受け取れます。一方、1回目と同じ溶質入り有機相を同じ条件で戻しても、すでに平衡である二相の量を再び大きく変えることにはなりません。今回の差は、混ぜる回数そのものよりも、新しい有機溶媒と残った水相を順に平衡にすることから生じます。

同じD・相体積で新しい溶媒を使うn回の抽出なら、初期量に対する残存率はqnです。各回で条件が違うときは、その回のqをそれぞれ求め、q₁q₂…qₙと掛けます。

この比較を実際の回収へ使うときは、各回が平衡に達しているか、実際の相体積とDが与件どおりかを確かめます。pHでDが変わる溶質なら各回のpHも対応させます。相の持ち込みや取り分け時の損失がある場合は、平衡で有機相へ移った量から、その失われた分を別に数えます。分ける回数の判断には、計算上の増分と取り分けの負担を合わせて使えます。

6.自分で確かめる:10 mLずつ三回なら?

D = 4.00、水相60.0 mL、初期0.300 mmolは同じです。総有機溶媒30.0 mLを、新しい10.0 mLずつ3回に分けます。①各回の残存率、②最後に残る量、③回収率を求めましょう。

解答 ①q = 60.0/(60.0+4.00×10.0)= 0.600。②残る量は0.300→0.180→0.108→0.0648 mmolです。③初期量に対する残存率は0.600³ = 0.216なので、回収率は1−0.216 = 0.784、78.4%です。各回に移る量0.120、0.0720、0.0432 mmolを足しても0.2352 mmolとなり、0.2352/0.300 = 78.4%に戻ります。

一回66.7%、二回75.0%、三回78.4%。同じ総溶媒量でも分け方で回収量は変わり、回数が増えるほど追加で取れる量は小さくなることが、この例で読み取れます。

総有機溶媒30mLを一回、15mL二回、10mL三回で比較。残量0.100、0.0750、0.0648mmolと回収0.200、0.225、0.2352mmolを同縮尺で示す。
図5 どの棒も初期0.300 mmolです。二回から三回へ増やしたときの追加回収は0.2352−0.225=0.0102 mmolで、一回から二回への0.0250 mmolより小さくなります。

演習の三回でも検算できます。1回目は水相3.00 mMと有機相12.0 mM、2回目は1.80 mMと7.20 mM、3回目は1.08 mMと4.32 mMで、各回の濃度比は4.00です。最後の水相量0.0648 mmolと三つの回収量を足すと0.300 mmolになります。

もう一歩:20 mLと10 mLに分けた場合

各回の体積が違うので、同じqを二回掛けることはできません。新しい20.0 mLを先に、次に新しい10.0 mLを使うと、q₁=60/(60+4×20)=3/7、q₂=60/(60+4×10)=3/5です。

残量:0.300×(3/7)×(3/5) = 0.300×9/35 ≈ 0.07714 mmol
回収合計:0.300−0.07714 ≈ 0.2229 mmol
回収率:1−9/35 = 26/35 ≈ 74.3%

1回目の回収量は0.300−0.300×3/7≈0.1714 mmol、2回目は(0.300×3/7)×(1−3/5)≈0.05143 mmolです。合計は丸め前の値で0.222857… mmol。15.0 mLずつの75.0%より少し低く、総溶媒量に加えて各回への割り振りも回収を変えると分かります。

最初の比較は、q=Va/(Va+DVo)を各回に求める → 直前の残量へ掛ける → 最後の残量を初期量から引く → 濃度比と全量に戻す、で完答できます。百分率を足すときは、分母が各回の出発量か初期量かもそろえましょう。

参考資料

David Harvey, Analytical Chemistry 2.1, §7.7 Liquid-Liquid Extractions:Liquid-Liquid Extraction With No Secondary Reactions、式7.2–7.7。量の収支と反復抽出の枠組みを参照し、本文・数値例・図は独自に構成しています。

コメント

タイトルとURLをコピーしました