水相のpHを3.00から4.00へ変えた別試料を比べると、金属の分配比Dは何倍になるでしょうか。金属が有機相へどれだけ分配されるかを、水相に残る自由金属と錯体の濃度から求めます。
この例の答えは50.5倍です。まずDの分母に入る金属種を数え、次に錯体と自由金属の比qを計算します。そこからDを求め、最後にlogD–pHの平均の傾きと一点での傾きを区別します。
水相のpH:3.00と4.00の別試料を比較
pH4.00で、水相の錯体/自由金属の濃度比 q = 1.00
錯体の分配係数 KD,c = 50.0
平衡後の有機相の自由[HL]と、温度・溶媒・イオン強度・各定数を同じに保つ。
求める量:D(pH4)/D(pH3)
1.与件を、どの化学種の濃度として読むか
教材用の二価金属M²⁺と、電荷−1の配位子L⁻を考えます。酸型HLは中性です。二つのL⁻がM²⁺へ結びついたML₂も電荷は0になり、有機相へ分配できます。aqは水相、orgは有機相を表します。H⁺は水溶液中の水素イオンの略記です。
この総括反応は、HLの相間分配・水相での酸解離・錯形成・錯体の相間分配をまとめた式です。水相の金属種はM²⁺とML₂だけ、有機相の金属種はML₂だけに限定します。加水分解や沈殿、別の錯体は含めません。
比較する各試料の温度、溶媒、イオン強度などを同じにし、平衡後の水相pHと有機相の自由な[HL]を指定します。HLの総投入量だけを同じにして、自由[HL]も同じと決めつける比較ではありません。pHは外部の緩衝で保ち、活量を濃度で近似できる模型として扱います。
2.Dの分母へ、水相にある金属を全部数える
Dは、有機相の全金属濃度を水相の全金属濃度で割った比です。ML₂にはLが二つありますが、金属Mは一つです。したがって、水相のM²⁺とML₂の濃度をそのまま一つずつ足して、水相の全金属濃度にします。

角括弧は各種の平衡濃度です。Dは同じ濃度単位どうしの比なので、単位は消えます。二つの相の体積が違ってもDは濃度の比です。金属の何%が有機相へ移るかを求める場合は、それぞれの濃度に相の体積を掛けた量も必要になります。
3.pHの違いから、錯体/自由金属の比qを求める
自由なM²⁺に対して水相のML₂が何倍あるかを、qで表します。角括弧はその種の平衡濃度で、単位はmol/Lです。qは同じ濃度単位どうしの比なので無次元です。
この模型では、qは自由なL⁻の濃度の2乗に比例します。平衡後の自由HLを同じに保つと、酸解離から自由L⁻は1/[H⁺]に比例します。pHが1増えると[H⁺]は10分の1、自由L⁻は10倍になるので、qは10²=100倍になります。
与件をもう一度、比の意味で読むと、pH4.00でq=1.00、錯体の分配係数KD,c=50.0です。後者は[ML₂]org/[ML₂]aqという同じ錯体の濃度比で、無次元です。この基準点を使えば、各pHのqを計算できます。
pH3.00:q = 0.0100
pH4.00:q = 1.00
pH5.00:q = 100
q=100なら「水相のML₂濃度が自由M²⁺濃度の100倍」です。「全金属の100倍」という意味ではなく、q自体をそのまま100%などの分率へ読み替えません。
もう一歩:qの比例関係と生成定数の単位
β₂,cは、M²⁺とL⁻2個からML₂を作る濃度表示の全生成定数で、単位は(L/mol)²です。[ML₂]/[M²⁺]=β₂,c[L⁻]²なので、右辺も無次元のqになります。またHLの酸解離から、固定した自由HLの条件では[L⁻]は1/[H⁺]に比例します。したがってqは1/[H⁺]²に比例します。pHが1増えると[H⁺]は10分の1になり、qは100倍になります。各定数を固定したこの濃度模型内の関係です。
有機相と水相のHLの分配係数も固定しているので、有機相の自由HLを同じに保つ比較では水相の自由HLも同じになります。
4.qをDへ変換して、倍率を出す
有機相のML₂濃度は水相のML₂濃度の50倍です。水相の錯体濃度をq×自由金属濃度へ置き換えると、上側から50q、下側から1+qが出てきます。上下に共通する自由金属濃度を約分します。
[ML2]org = 50[ML2]aq
[ML2]aq = q[M2+]aq
D = 50q / (1 + q)
q/(1+q)は、水相の全金属のうちML₂に入った分率です。その分率に錯体の分配係数50を掛けるとDになります。qが100倍になっても、分率は最大1までしか増えません。

ペンタqが100倍なら、Dも100倍では?
イコールDは50qではなく50q/(1+q)です。水相の分母にML₂も入るので、qが大きいほど分母も増えます。
ペンタ水相の錯体を数えなければ、係数2の予想どおりになる?
イコールqが1よりずっと小さく、水相の金属がほぼ自由M²⁺なら、1+qを約1とできます。その範囲ではD≈50qなので、予想の100倍に近づきます。
pH3と4のqを、この式へそれぞれ代入します。倍率を求めるので、最後は変更後のDを変更前のDで割ります。
pH4:D = 50×1 / 2 = 25.0
倍率:25.0 / 0.49505 = 50.5倍
qは0.0100から1.00へ100倍になりましたが、Dは約0.49505から25.0へ50.5倍になりました。水相の錯体も下側へ加わるため、qの倍率がそのままDの倍率にはなりません。
5.二点の平均の傾きへ、求めた倍率を戻す
log₁₀Dを縦軸、pHを横軸にすると、二点を結ぶ平均の傾きは「logDの差 / pHの差」です。Dは無次元なので、その対数を取れます。pHの差が1.00で、対数の差は倍率50.5の対数です。
= log₁₀(25.0 / 0.49505) / (4.00−3.00)
= log₁₀(50.5) ≈ 1.703
H⁺の反応係数は2のままですが、この二点間の平均の傾きは2ではありません。pH3では水相の錯体が少なく、pH4へ近づくと水相の金属の半分が錯体になり、分母の増え方を無視できなくなるためです。

ペンタ平均が1.703なら、pH4での傾きも1.703?
イコール平均はpH3から4の全区間を結んだ線です。pH4のすぐ近くの短い区間で見ると別の傾きになり、この模型では1です。
ペンタ曲線が平らになると、H⁺が反応式から消えるの?
イコール反応式は変わりません。水相で錯体が占める割合が1に近づき、Dが50に近づくため、pHをさらに変えてもDがあまり増えなくなります。
6.pH4の一点では、傾きはいくつか
pH3から4の平均は約1.703でした。一方、pH4のすぐ近くでの傾きは1.000です。この違いを式から確認します。
局所の傾きは、横軸の区間を十分短くして見た変化率です。微分を使うと、log₁₀D=log₁₀50+log₁₀q−log₁₀(1+q)をpHで微分します。log₁₀q=2(pH−4)なので最初のqの項の傾きは2。最後の分母の項が、その増え方を差し引きます。
= 2 − 2q/(1+q)
= 2/(1+q)
pH3ではq=0.0100で約1.980、pH4ではq=1で1.000、pH5ではq=100で約0.0198です。2に近い、1、ほぼ0という変化を、同じ分母1+qから読めます。微分をまだ使わない場合も、図3で高pHほど曲線が平らになることと、Dが50に近づくことを確認できます。

7.別の区間を、自分で計算して確かめる
問1 pH4.00から5.00の別試料の比較で、Dの倍率とlogD–pHの平均の傾きを求めてください。自由HLと定数は主例と同じです。
解答 pH5ではq=100、D=5000/101≈49.505。pH4のD=25.0で割ると200/101≈1.9802倍です。pH差は1なので、平均の傾きはlog₁₀(1.9802)≈0.29671。pH5一点の局所勾配約0.0198とも区別します。
問2 水相のqが0.10の点では、局所勾配は2に等しいでしょうか。また、水相の錯体分率とDはいくつですか。
解答 局所勾配は2/1.10≈1.818で、2に等しくありません。錯体分率は0.10/1.10≈0.09091、D=50×0.09091≈4.545です。q=0.10を「全金属の10%」とする計算ではありません。
主問のpH3→4では、Dの倍率は50.5倍、二点の平均の傾きは約1.703、pH4の局所勾配は1.000でした。傾きから反応式を読むときは、同じ量の自由配位子を保った比較なのか、水相の分母へどの金属種を数えたのかを確認します。二点間の平均、ある一点の局所勾配、反応式の係数を分ければ、同じ式でも曲線の傾きが変わる理由を追えます。
参考資料
David Harvey, Analytical Chemistry 2.1 §7.7, Liquid-Liquid Extraction of a Metal–Ligand Complex(四つの平衡、式7.12)。この記事は自由な有機相HLを指定する模型で整理し、初期HL濃度で近似する条件と区別しました。pH4の基準点、分配係数50、図の曲線と傾きの数値は教材用の独自計算です。

コメント