回収率90%・純度95%は同時に達成できる? 液液抽出の条件を選ぶ

分析化学
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水相にある目的成分Aを、有機相へ一回の液液抽出で取り出します。一緒に入っている不要な成分Iも移るので、有機相を増やせばよいとは限りません。Aの回収率90%以上と、取り出した成分の純度95%以上を同時に満たす有機相体積はあるでしょうか。

解く問題
初めの水相:A 1.000 mmol、I 1.000 mmol
平衡後の水相体積 Va = 100 mL
AもIも含まない新しい有機相で、一回平衡にする
分配比 DA = 100、DI = 1
目標:A回収率 ≥ 0.90、Aのmol純度 ≥ 0.95
求める量:両目標を満たす平衡後の有機相体積 Vo(mL)

二つの目標をそれぞれ体積の不等式にして、許容範囲が重なるか調べます。この与件では、回収率には9.00 mL以上、純度には4.50 mL以下が必要となり、共通の体積はありません。量の対応から、その結論まで導きます。

ペンタとイコールが、試料とノートを見ながら取り出す量と残る量を相談している。
取り出す量を増やすことと、不要な成分を減らすことは別の目標です。以下の図で、同じ体積条件が両方を満たすかを見ます。

1.回収率と純度で、何を分母にするか

AとIは計算用の仮想成分です。初めの量を、AはnA,0、IはnI,0と書くと、今回どちらも1.000 mmolです。まず、何の量を求めて何で割るかを分けます。

水相と有機相は互いに分かれる二つの液相です。成分が有機相へ移った後の物質量をnA,o、nI,oと書きます。添字oは有機相、0は初めの量を表します。回収率は、初めのAのうち有機相に取り出した割合です。

Aの回収率 EA = nA,o / nA,0
ここでの純度 P = nA,o / (nA,o + nI,o)

この例でいう純度は、溶媒を除いたAとIの合計molに占めるAの割合です。質量%ではありません。AとIのモル質量が違えば、同じmol分率でも質量分率は違います。値0.90は90%、0.95は95%です。

ペンタ

Aを90%取り出せたら、取れたものの純度も90%?

イコール

ペンタさん、回収率の分母は初めのAだけです。純度の分母には、一緒に取り出したIも入ります。

ペンタ

初めのAの量が同じでも、Iが多くついてくると純度は下がるんだね?

イコール

はい。Aの回収量を確認したあと、同じ有機相の中にあるAとIを足して純度を求めます。

2.同じ体積で、AとIがそれぞれ何割移るか

この模型では各成分の分配比Dを、平衡時の「有機相の全濃度 / 水相の全濃度」とします。濃度はmol/Lで、Dは無次元です。温度・二つの溶媒・各成分の形を固定し、Dが濃度や体積比によって変わらない範囲を考えます。反応、会合、相間の損失は含めません。

DA = 100、DI = 1
r = Vo / Va > 0
Vo:平衡時の有機相体積
Va:平衡時の水相体積

二相の体積は平衡後の値を使います。図では各成分が「有機相へ取り出した量」と「水相に残る量」に分かれることを見ます。二相を足すと、各成分の初めの1.000 mmolへ戻ります。

初期AとIは各1.000 mmol。有機相へ移った量をxA、xI、水相に残る量をそれぞれ1.000−xA、1.000−xIと表す。
図1 AとIを別々に数えます。二つの相の量を体積で割ると濃度になり、次の分配比の式へつながります。

図のxAはAの有機相量nA,o、xIはIの有機相量nI,oを表します。どちらか一成分を取り上げ、初めの量をn0、有機相へ移った量をxと置きます。水相にはn0−xが残るので、有機相の濃度はx/Vo、水相の濃度は(n0−x)/Vaです。

D = (x / Vo) / {(n0 − x) / Va}
r = Vo / Va を使うと
Dr = x / (n0 − x)
Dr(n0 − x) = x
Drn0 = x(1 + Dr)
x = n0Dr / (1 + Dr)

このxを、初めの量n0で割ると回収率Eです。濃度をca、coと書けばco=Dca、収支はn0=caVa+DcaVoとなり、同じ式が得られます。Dは濃度の比なので、D=100をそのまま「有機相の量が水相の100倍」とは読めません。量の比には体積比rも掛かります。

E = DVo / (Va + DVo)
分母・分子をVaで割ると
E = Dr / (1 + Dr)

EA = 100r / (1 + 100r)
EI = r / (1 + r)

まず有機相9.00 mLを候補にします。r=9.00/100=0.0900なので、EA=9/10=0.900、EI=0.0900/1.0900≈0.0825688です。取り出した量は、各成分の初期量にこの割合を掛けます。

nA,o = 1.000 mmol × 0.900 = 0.900 mmol
nI,o = 1.000 mmol × 0.0825688 ≈ 0.0826 mmol
水相に残るA:1.000 − 0.900 = 0.100 mmol
水相に残るI:1.000 − 0.0825688 ≈ 0.9174 mmol

Aは0.900+0.100=1.000 mmol、Iは約0.0826+0.9174=1.000 mmol。図1で置いた二つの収支を、数値でも満たします。図2では、このうち回収率と純度の計算に使う量を見分けます。

rが0.090の抽出。A回収率は0.900mmolを初期1.000mmolで割り90%。mol純度は0.900mmolを抽出したA0.900とI0.0826mmolの合計で割り約91.6%。
図2 上はAだけの回収、下は有機相にある二成分の内訳です。同じA 0.900 mmolでも、何で割るかが変わります。

回収率は0.900/1.000=0.900、純度は0.900/(0.900+0.0825688)≈0.915966です。同じA 0.900 mmolでも、回収率は90.0%、mol純度は約91.6%。回収目標には届きますが、純度目標95%には届きません。候補を一つ試すだけでなく、体積を変えてよい範囲を求めましょう。

3.回収率90%以上には、有機相がどれだけ必要か

Aの回収率の式を、90%以上という条件へ入れます。r>0なので分母1+100rは正で、両辺へ掛けても不等号の向きは変わりません。

100r / (1 + 100r) ≥ 0.90
100r ≥ 0.90 + 90r
10r ≥ 0.90
r ≥ 0.090

水相が100 mLなら、有機相は少なくとも9.00 mL必要です。Dが100でも、有機相の体積が非常に小さければ、ほとんど全量を取り出せるわけではありません。

4.純度95%以上には、有機相をどこまで増やせるか

純度は、抽出したAを、抽出したAとIの合計で割る量です。初めのAとIが等molなので、今回はそれぞれの抽出率だけで表せます。

P = (1.000 mmol × EA) / {(1.000 mmol × EA) + (1.000 mmol × EI)}
同じ1.000 mmolで分母・分子を割ると
P = EA / (EA + EI)

二つの抽出率は異なる分母を持つので、分母をそろえてから足します。足した結果も、Aを取り出した割合で割るための「分母」です。

EA + EI
= {100r(1 + r) + r(1 + 100r)} / {(1 + 100r)(1 + r)}
= r(101 + 200r) / {(1 + 100r)(1 + r)}

P = {100r / (1 + 100r)} × {(1 + 100r)(1 + r) / r(101 + 200r)}
P = 100(1 + r) / (101 + 200r)

最後に共通因子rと1+100rを約分すると、上のPの式になります。r=0では取り出したAもIも0で、純度は0/0となり定義できません。今回は有機相を使うr>0の範囲で判断します。純度の式の分母101+200rも正なので、次の不等式で掛けても向きは変わりません。

100(1 + r) / (101 + 200r) ≥ 0.95
100 + 100r ≥ 95.95 + 190r
4.05 ≥ 90r
0 < r ≤ 0.0450

水相100 mLなら、有機相を4.50 mL以下に抑える必要があります。r=0.0450ではA回収率は約81.8%、純度は95.0%です。純度を満たす境界でも、Aの回収率90%には届きません。

同じr軸で、A回収率90%以上はr0.090以上、mol純度95%以上はr0超から0.045以下。両範囲は重ならない。
図3 二つの条件を同じ横軸に置きます。緑の許容範囲と茶色の許容範囲に共通部分がないので、一回抽出の体積だけでは両目標を満たせません。
ペンタ

Dが100対1だから、Iはほとんど移らないと思っていた。大きな有機相でAをたくさん取ればいいのでは?

イコール

IにもD=1の分配があります。有機相を増やすとIも多く移るので、回収率を上げる条件と高い純度の条件が離れます。

ペンタ

図の空いた部分のどこかを選べば、両方を少しずつ満たせる?

イコール

その間は両目標に届きません。rが0.045を超すと純度95%未満で、0.090未満では回収率90%未満です。今回は目標か分配条件を変える必要があります。

境界を量へ戻す
有機相4.50 mL(r=0.0450):A 約0.81818 mmol、I 約0.043062 mmol。回収率約81.8%、純度95.0%。

有機相9.00 mL(r=0.0900):A 0.900 mmol、I 約0.082569 mmol。回収率90.0%、純度約91.6%。

答え:この分配条件では、両目標を満たす体積はありません。4.50 mLと9.00 mLの間を選んでも、純度95%に必要な上限を超え、回収率90%に必要な下限には届きません。図3の二つの区間を同時に選ぶことができない、と式へ戻して説明できます。

5.分配条件を変えると、共通の体積が生まれるか

今度はAのDA=100を保ち、IのDIだけが0.1になる別の分配条件を比較します。この比較では仮想の分配比だけを変えます。実際に使う溶媒では、AとIそれぞれの分配比を確認して同じ計算を行います。

EA = 100r / (1 + 100r)
EI = 0.1r / (1 + 0.1r)
P = 100(1 + 0.1r) / (100.1 + 20r)

Aの回収率は変わらないため、回収率90%以上の条件はr≥0.090のままです。純度の分母に入るIの量は小さくなります。先ほどと同じように二つの分母をそろえると、EA+EI=r(100.1+20r)/{(1+100r)(1+0.1r)}となり、Pは上の式になります。

100 + 10r ≥ 0.95(100.1 + 20r)
4.905 ≥ 9r
純度95%以上:0 < r ≤ 0.545
両目標の共通部分:0.090 ≤ r ≤ 0.545
DIを0.1に変えた別条件。同じr軸でA回収率90%以上は0.090以上、mol純度95%以上は0超から0.545以下。共通範囲は0.090から0.545。
図4 Iの移りにくい条件では許容範囲が重なります。両端も目標以上となるため、0.090と0.545を含めて選べます。

今回の水相100 mLなら、共通範囲は有機相9.00~54.5 mLです。下端r=0.0900では回収率90.0%、純度約99.02%。上端r=0.545では回収率約98.20%、純度95.0%で、両端も含められます。

例として有機相10.0 mL、つまりr=0.100を選び、元の回収式へ戻します。EA=10/11≈0.909091、EI=0.010/1.010≈0.00990099です。

有機相のA:約0.909091 mmol、水相のA:約0.0909091 mmol
有機相のI:約0.00990099 mmol、水相のI:約0.990099 mmol
P ≈ 0.909091 / (0.909091 + 0.00990099) ≈ 0.989226

各成分で有機相+水相=1.000 mmolに戻り、A回収率約90.9%、mol純度約98.9%です。図4の共通範囲から選んだ10.0 mLが、二つの目標を同時に満たすことを数値で確認できました。

ペンタ

有機相をもっと増やせば、Aはさらに多く取れるね。54.5 mLを超えてもよい?

イコール

Aの回収率だけなら上がりますが、Iも増えます。54.5 mLが純度95%を保てる上限です。

ペンタ

では10.0 mLのように、二つの範囲が重なる場所から選ぶんだね?

イコール

はい。必要な回収率を満たす下限と、必要な純度を守る上限の両方を使います。今回なら9.00~54.5 mLです。

ここで求めたのは一回抽出の平衡模型の条件です。多段抽出、AとIの初期量の違い、酸塩基反応などを加える場合は、その条件の分配比と物質収支から判断し直します。

6.同じ式で、目標を変えて確かめる

問 最初のDA=100、DI=1、初期A/I等molの例で、Aの回収率目標だけを80%以上へ下げます。純度は95%以上のままです。両目標を満たすrの範囲を求め、水相の平衡体積50.0 mLに対する有機相体積へ換算してください。

解答 100r/(1+100r)≥0.80を解くと100r≥0.80+80r、r≥0.0400です。純度の条件0<r≤0.0450は変わりません。共通部分は0.0400≤r≤0.0450。Vo=rVaなので、有機相の平衡体積は2.00~2.25 mLです。

下端r=0.0400で回収率80.0%、純度100×1.040/(101+8)≈95.41%。上端r=0.0450で回収率約81.8%、純度95.0%です。端の値を戻すと、どちらの目標にも届いていることを確認できます。

この解き方の要点は、初期量→二相の量→回収率・純度→体積の不等式→共通範囲、という順です。純度を求めるときに初期量を分母へ入れず、選んだ体積を最後に元の抽出量へ戻して確かめます。

参考資料

David Harvey, Analytical Chemistry 2.1 §7.5(回収と妨害成分を分けて評価する考え方)、§7.7(分配比と二相の物質収支、抽出率)。この記事の数値例、mol純度の条件と許容範囲は、上記の収支を使って導いた教材用の計算です。

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