総配位子濃度を[L]へ入れてよい?―範囲内の誤答を物質収支で見抜く

分析化学
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金属Mと、金属に結びつく相手である配位子Lを、どちらも混合後の全濃度が0.600 mMになるように混ぜます。MとLが一つずつ結びついた錯体MLは、何mMできるでしょうか。

答えはMLが0.400 mM、自由なMとLは各0.200 mMです。全部がMLになるわけではありません。この記事では、入れた全量を「自由に残る分」と「MLへ入る分」に分け、式を立ててこの答えまで求めます。

この問題の与件
全金属 CM = 0.600 mM、全配位子 CL,T = 0.600 mM
M + L ⇌ ML、Kc = 1.00×104 L/mol
一定の温度・溶媒で、M・L・MLだけを扱う1対1の教材モデル。Lは中性とし、他の錯体、Lの酸塩基反応、沈殿は含めません。Kcは濃度で定義した教材用の与件です。

1.求める量をxにする:MLができた分は、自由なMとLから引く

まず、自由なMとは「Lと結びついていないM」、自由なLとは「Mと結びついていないL」です。角括弧の[M]、[L]、[ML]は、それぞれの形で存在する平衡時の濃度を表します。全濃度は、どの形に入っているかを問わず合計した濃度です。

1 mMは1 mmol/Lです。同じ溶液1 Lあたりで、金属は全部合わせて0.600 mmol、Lも全部合わせて0.600 mmolある、という読み方ができます。ここで使う総量は、混ぜる前の原液の濃度ではなく、混合後の溶液に対する全濃度です。

知りたい錯体の濃度をx=[ML]と置きます。ML一組にはM一つとL一つが入るので、MLがxだけできれば、自由なMと自由なLから、それぞれ同じxを引きます。

ML一組はMとLを各一つ含む。全Mと全Lをそれぞれ自由C−xとML中xへ分ける。
図1|同じMLを、金属の内訳とLの内訳でそれぞれ数えています。錯体の濃度を2倍にするわけではありません。
金属の全量:CM = [M] + x
Lの全量:CL,T = [L] + x
今回は両方0.600 mMなので、[M] = [L] = 0.600 − x
ペンタ

入れたLは0.600 mMだから、[L]も0.600を使ってよい?

イコール

MLへ入ったLも、入れた全量に含まれています。自由なLだけを使う式では、結合したxを引いて0.600−xにします。

ペンタ

Mからも同じxを引くのは、MLが1対1だから?

イコール

そうです。このモデルではMLが1 mmolできるごとに、MもLも各1 mmol使います。同じ溶液の体積で割るので、濃度でも同じxを引けます。

横軸は候補のML濃度x、縦軸は自由L濃度。正しい関係0.600−xは下降し、誤代入0.600は水平。
図2|結合した分が増えるほど自由なLは減ります。横軸は候補の組成です。どの候補が平衡になるかは、次の平衡式で決めます。

2.収支で残量を表し、平衡式でxを決める

全量を守るだけなら、たとえばxが0.100 mMでも0.400 mMでも、残量を引けば内訳は作れます。どれが平衡で実際に成立するかを選ぶために、与えられたKcを使います。

Kc = [ML][M][L]
[ML] = Kc[M][L]

右辺へ入れるのは、自由なMと自由なLです。どちらも0.600−xなので、同じ数を二つ掛けます。二乗は、この二つの自由濃度が等しいために現れます。Lが2個結びつくという意味ではありません。

濃度をmM(mmol/L)でそろえて計算します。1 mol=1000 mmolなので、Kcも1.00×104 L/mol = 10.0 L/mmolに換算します。(L/mmol)×(mmol/L)2はmmol/Lとなり、錯体の濃度の単位に戻ります。

x = Kc(C − x)2
xをmMで表した数値として書くと、x = 10.0(0.600 − x)2

3.二次方程式を最後まで解く:錯体は0.400 mM

x = 10.0(0.360 − 1.200x + x2)
10.0x2 − 13.0x + 3.60 = 0
x = 13.0 ± √(13.02 − 4×10.0×3.60)2×10.0
= 13.0 ± 5.020.0
x = 0.400 または 0.900 mM

0.900 mMを採用すると、自由なMとLは0.600−0.900=−0.300 mMです。入れた全量以上のMとLが必要になり、残量が負になるので、この根は使えません。

[ML] = 0.400 mM
[M] = [L] = 0.600 − 0.400 = 0.200 mM
金属とLそれぞれの全濃度0.600mMを、自由0.200とML中0.400に分けた同縮尺の棒。
図3|計算で求めたx=0.400を、図1のxへ戻した結果です。金属もLも、自由0.200と結合0.400を合わせると0.600 mMになります。

最後に元の条件へ戻します。金属・Lの収支はどちらも0.200+0.400=0.600 mM。平衡比は次のとおりで、与えたKcへ戻ります。

0.400 mmol/L(0.200 mmol/L)(0.200 mmol/L) = 10.0 L/mmol = 1.00×104 L/mol

4.近似を使うなら、何の量を何%で求めたいか決める

ここまでの等量の例で[L]=0.600と置くと、MLへ入ったLを引き忘れます。その計算はx=10.0(0.600−x)×0.600、つまりx=6(0.600−x)となり、x≈0.514 mM。正しい0.400 mMより約28.6%大きくなります。

では、同じKcで全Mを0.600 mM、全Lを6.000 mM(Mの10倍)に変えるとどうでしょう。Lの自由濃度を6.000 mMで代用する近似を、相対誤差1%以内という基準で判定します。

収支を両方使う式:x = 10.0(0.600 − x)(6.000 − x)
10.0x2 − 67.0x + 36.0 = 0
使える根:x = 67.0 − √304920.0 ≈ 0.589112 mM
自由M = 0.600 − x ≈ 0.0108875 mM
近似式:x = 10.0(0.600 − x)×6.000 = 60(0.600 − x)
近似ML = 36.061.0 ≈ 0.590164 mM、近似自由M ≈ 0.00983607 mM

誤差は、それぞれ求めたい量の厳密値を分母にします。錯体の誤差を、自由なMの誤差の代わりに使うことはできません。

相対誤差(%) = 近似値 − 厳密値厳密値 ×100
錯体MLの相対誤差:+0.1785%(1%以内)
自由Mの相対誤差:−9.6576%(1%を超える)

錯体量のずれは約0.00105 mMです。厳密な錯体量約0.589 mMで割ると小さな割合ですが、自由Mの厳密値約0.01089 mMで割ると約9.7%になります。上の誤差表示は、丸め前の計算値を使って求めています。

ペンタ

Lが10倍なら、近似してよいって決められる?

イコール

1%以内で錯体量を求めたいなら、この例の0.1785%は基準内です。でも自由Mを1%で求めたいなら、9.6576%は基準を超えます。

ペンタ

同じ近似なのに、自由Mだけ大きくずれるのはなぜ?

イコール

錯体量の約0.00105 mMのずれは、残る自由Mの約0.01089 mMと比べると大きいからです。全Mから大きな錯体量を引いて小さな残量を出すので、その残量の精度を別に調べます。

横軸は全Lと全Mの比1から100、縦軸は各量の近似相対誤差の絶対値。上下別パネルでMLと自由Mを示し、10倍の点と許容1%を表示。
図4|このKcと全MでLの量を変えた計算です。上はML、下は自由Mを求めるときの誤差。10倍では上だけ1%の破線より下に入ります。対数目盛りは一目盛りごとに10倍です。

この条件では、Lが10倍の近似は「錯体量を1%以内」で求める目的に使えます。「自由Mを1%以内」では使えないため、両収支を入れた式で求めます。過剰度だけで決めず、求める量と許容誤差を組にして判断します。

5.自分で同じ道筋をたどる

問1 同じKcで、混合後の全Mと全Lが各0.200 mMの別試料です。ML、自由M、自由Lを求めてください。まずMLをxと置き、二つの自由濃度を表してから計算します。

問1の解答と検算
自由M = 自由L = 0.200 − x
x = 10.0(0.200 − x)2 → 10.0x2 − 5.0x + 0.400 = 0
x = 5.0 ± √(25.0 − 16.0)20.0 = 0.100 または 0.400 mM
0.400は全量0.200を超えるので棄却。ML = 0.100、自由M/Lも各0.100 mM。
各全量:0.100+0.100=0.200 mM
平衡比:0.100/(0.100×0.100)=10.0 L/mmol

問2 全Lが0.600 mMで、ある候補のMLが0.250 mMでした。この候補の自由Lは何mMですか。また、この引き算だけで平衡の答えと決められますか。

問2の解答

自由Lは0.600−0.250=0.350 mMです。これは全Lを守る候補の内訳です。平衡の答えかどうかは、自由Mも収支から求め、Kcを満たすか調べて決めます。

この問題の道筋は、MLをxと置く → 自由種を全量−xで表す → 平衡式へ代入 → 非負の組成を選ぶ → 元の収支とKへ戻す、です。近似を使うときも、まずこの道筋で何を省くのかをはっきりさせます。

補足:旧稿の誤答検査を、Lの内訳で見る

等量の例で自由Lを0.600 mMと固定した誤答x=0.514286 mMは、自由L0.600とML中のL0.514286を同時に要求します。合計1.114286 mMで、用意した全L0.600 mMを超えます。

用意した全L0.600mMと、誤計算が要求する自由L0.600+ML中0.514286の合計1.114286を同縮尺で比較。
図5|供給されたLの上限と、計算が要求するLを比べます。結合したLを、自由なLとしても数えているのが誤りです。

誤答の自由M/Lだけを0.600−0.514286≈0.085714 mMへ直しても、平衡比は約7.00×104 L/molとなり、指定のKcとは一致しません。量を一緒に決め直す必要があります。

もう一歩:割合で整理する同じ解法

等量の場合にy=x/Cと置くと、yは全金属のうちMLに入った割合です。y=KcC(1−y)2。C=0.000600 mol/L、KcC=6なので、6y2−13y+6=0。y=2/3または3/2のうち、0≤y≤1を満たす2/3を使えば、x=(2/3)×0.600=0.400 mMです。

根拠と計算モデル

形成定数に自由な化学種の濃度を使うことは、David Harvey『Analytical Chemistry 2.1』§6.4 Metal–Ligand Formation Constants、収支と平衡式を組み合わせて近似を検査する方法は§6.7 Solving Equilibrium Problemsを参照しました。数値例とグラフは上の教材用与件から計算しています。

ここでのKcは濃度商で、活量から定義する無次元の熱力学的平衡定数とは区別します。Mは水中でLに結合していない金属種の略記で、水の配位は省いています。中性Lを結んでもMとMLの電荷は同じです。

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