生成定数は40倍でも錯体は同量?―二配位子の競合と割合の分母

分析化学
スポンサーリンク

金属Mを含む水溶液に、二種類の配位子LとXがあります。平衡時の自由なLが0.0500 mM、自由なXが2.00 mM、金属の全濃度が0.0900 mMなら、自由なM、錯体ML、錯体MXはそれぞれ何mMでしょうか。

二つの平衡式から三種の濃度比を作り、金属の全量をその比で分けます。答えはMが0.0100 mM、MLとMXが各0.0400 mMです。そのあと、各錯体の割合が44.4%にも50%にもなる理由を、数える対象から確かめます。

KL,c = 8.00×104 L/mol
KX,c = 2.00×103 L/mol
自由な[L] = 0.0500 mM = 5.00×10−5 mol/L
自由な[X] = 2.00 mM = 2.00×10−3 mol/L
全金属濃度 CM = 0.0900 mM

ここで与えた[L]と[X]は、平衡で結合せずに残っている濃度です。全濃度は混合後の同じ溶液体積に対する値で、1 mM = 1 mmol/Lです。二つの生成定数は、以下のモデルに与えた計算用の値です。

ペンタとイコールがノートを前に、二種類の配位子による金属の分配を相談している。
二つの配位子があると、金属はどちらへ何mMずつ入るでしょうか。まず自由な金属との比を求めます。

1.二つの平衡が、同じ自由なMを共有する

同じ温度・溶媒条件で、金属を含む種はM、ML、MXの三つだけとする教材モデルです。LとXは中性の一座配位子で、金属に結びつく部位を一つ持ちます。MはLにもXにも結合していない金属種の略記で、水和した水分子は省きます。Mの電荷がz+ならML、MXもz+です。水和の基準をそろえ、酸塩基反応、沈殿、ML2やMLXなどは含めません。

M + L ⇌ ML
M + X ⇌ MX
KL,c = [ML][M][L]
KX,c = [MX][M][X]

角括弧は各化学種の平衡濃度です。二つの分母にある[M]は同じ自由な金属濃度です。KL,c、KX,cは一定の溶液条件で濃度から定義する生成定数で、単位はL/molです。活量で定義する無次元の熱力学的定数とは区別します。冒頭の与件は、この濃度モデルへ適用します。

ここでは平衡時の自由濃度を与えています。LとXをそれぞれこの濃度だけ投入した、という指定ではありません。全配位子濃度が与えられた問題なら、自由な量と結合した量の収支から[L]、[X]を求める必要があります。主例の自由濃度を保つために必要な総量は、後で足し戻します。

2.定数に自由濃度を掛けた「重み」を読む

生成定数の式を直すと、[ML]/[M] = KL,c[L]、[MX]/[M] = KX,c[X]です。それぞれの積をwL、wXと置きます。これは自由なMに対する、各錯体の濃度比です。(L/mol)×(mol/L)で単位が消えるので、重みは無次元になります。

wL = KL,c[L] = (8.00×104)×(5.00×10−5) = 4.00
wX = KX,c[X] = (2.00×103)×(2.00×10−3) = 4.00
[ML] = 4[M]、[MX] = 4[M]
したがって M:ML:MX = 1:4:4
Lの定数はXの40倍で自由濃度は1/40。定数と自由濃度の積は両方4、金属種の濃度比はM対ML対MXが1対4対4。
図1|定数の比40と自由濃度の比1/40が打ち消し合います。「4」は生成する速さではなく、平衡での[ML]/[M]または[MX]/[M]です。
ペンタ

Lの定数が40倍なら、MLもMXの40倍できるのでは?

イコール

自由な配位子濃度も掛けます。ここではLがXの1/40しかないので、40×1/40 = 1。二つの錯体の濃度は同じです。

ペンタ

じゃあ自由Lと自由Xも同じなら、MLはMXの40倍になる?

イコール

この三種だけのモデルで両自由濃度が同じなら、[ML]/[MX]は定数比の40です。ただし全金属の何%がMLかを求めるには、自由なMも分母へ含めます。

3.全金属を9等分して、濃度を求める

M、ML、MXには、それぞれ金属が一つずつ入っています。したがって金属の全量は、三種の濃度を足して数えます。[ML]を4[M]、[MX]を4[M]へ置き換えると、全体は[M]+4[M]+4[M] = 9[M]です。比が1:4:4なら、全量0.0900 mMを9等分した1区画が自由なM、4区画ずつがMLとMXになります。

CM = [M] + [ML] + [MX]
= [M](1 + wL + wX) = 9[M]
[M] = 0.0900/9 = 0.0100 mM
[ML] = 4×0.0100 = 0.0400 mM
[MX] = 4×0.0100 = 0.0400 mM

合計は0.0100+0.0400+0.0400 = 0.0900 mMで、与えられた金属総量へ戻ります。全金属に対する分率fは、各種の濃度をCMで割ったものです。

fM = 1/9 ≈ 0.111
fML = fMX = 4/9 ≈ 0.444
全金属に対する割合:自由M 約11.1%、ML 約44.4%、MX 約44.4%

4.錯体だけを分母にすると、50%ずつになる

「MLとMXは半分ずつ」という答えも、対象を明確にすれば正しい場合があります。錯体になっている金属だけを数えると、その合計は[ML]+[MX] = 0.0800 mMで、自由Mの0.0100 mMを含みません。

錯体中の金属に占めるMLの割合 = [ML][ML] + [MX]
= 0.0400/0.0800 = 1/2 = 50%
全金属に占めるMLの割合 = [ML][M] + [ML] + [MX]
= 0.0400/0.0900 = 4/9 ≈ 44.4%
同じ金属量9区画のうち自由Mが1、MLが4、MXが4。全金属を分母にすれば各錯体4/9、錯体だけ8区画を分母にすれば各4/8。
図2|1区画は金属の濃度0.0100 mMに対応します。Mが1区画、MLとMXが4区画ずつ。全金属なら9区画、錯体中の金属だけなら8区画を分母にします。同じMLの4区画でも、数える対象が変わると割合が変わります。
ペンタ

MLもMXも0.0400 mMだから、各50%と書いたら間違い?

イコール

「錯体に入った金属のうち」なら各50%です。「全金属のうち」なら自由Mも入るので、各4/9、約44.4%です。

ペンタ

分母からMを除いたら、Mは液からなくなるの?

イコール

Mは0.0100 mMのまま存在します。数えたい対象を錯体に絞っただけです。対象を変える操作と、溶液の中身が変わる操作を区別します。

全金属中のMLを求めたいのに、自由Mを無視して「50%」と近似するとどうでしょう。正しい分率4/9に対して、相対誤差は(1/2−4/9)/(4/9)×100 = +12.5%です。たとえば相対誤差1%以内という目的なら、この例では自由Mを省けません。錯体中だけの50%は近似ではなく、別の問いへの正しい割合です。

5.自由濃度と総量を、式に戻して確かめる

二つの生成定数へ、三種の濃度と与えられた自由濃度を戻します。計算はmol/Lへ統一します。

KL,c = 0.0000400(0.0000100)(0.0000500) = 8.00×104 L/mol
KX,c = 0.0000400(0.0000100)(0.00200) = 2.00×103 L/mol

どちらも指定の定数に合います。次にLとXの全量を足し戻します。ML一つはL一つ、MX一つはX一つを含むため、各総濃度は自由量とその錯体濃度の和です。

CL,T = [L] + [ML] = 0.0500 + 0.0400 = 0.0900 mM
CX,T = [X] + [MX] = 2.00 + 0.0400 = 2.04 mM
Lは自由0.0500と錯体中0.0400で総量0.0900mM。Xは自由2.00と錯体中0.0400で総量2.04mM。
図3|平衡式へ入れた自由濃度と、それを実現する総量は異なります。主例に合う投入総量はLが0.0900 mM、Xが2.04 mMです。表の値は同じ平衡組成の成分収支で、LとXの質量ではありません。

主例では「自由濃度は既知」なので、金属の収支から組成を決め、後から総L・総Xを求められました。反対に総L・総Xが既知なら、錯形成で自由濃度が減ることを収支へ含めます。総Lを[L]へ直接入れる計算には戻りません。

6.自由Xを変えた別試料で確かめる

問1 同じ生成定数と全金属0.0900 mMを使います。自由な[L]は0.0500 mMのまま、自由な[X]が1.00 mMの別の平衡試料では、M、ML、MXの濃度、全金属分率、錯体だけのML分率はいくつでしょう。

解答:wL = 4、wX = 2 → M:ML:MX = 1:4:2
[M] = 0.0900/7 ≈ 0.0129 mM
[ML] = 4×0.0900/7 ≈ 0.0514 mM
[MX] = 2×0.0900/7 ≈ 0.0257 mM
全金属分率:1/7、4/7、2/7
錯体だけのML分率:4/(4+2) = 2/3 ≈ 66.7%

濃度の丸め前には合計が正確に0.0900 mMです。ML/MXは2となり、定数比40×自由濃度比0.0500/1.00 = 2とも一致します。

問2 問1を「主例へ水を加えて、自由Xを半分にしただけ」と説明してよいでしょうか。必要な総L、総Xも計算してください。

解答:単純な希釈とは異なります。水を加えると総金属濃度も下がり、自由L濃度は希釈後の平衡と物質収支から求め直します。
問1に必要なCL,T = 0.0500+0.0514286 ≈ 0.101 mM
問1に必要なCX,T = 1.00+0.0257143 ≈ 1.03 mM

主例の総Lは0.0900 mMでしたが、問1では約0.101 mMが必要です。「自由なXを変え、自由なLと全金属を保つ」という条件は、単純な希釈とは違う試料指定です。

ペンタ

Xが半分になったなら、主例を2倍に薄めたことになる?

イコール

問1では全金属と自由Lを元の値に保っています。水を加えるだけでは全金属も薄まり、この指定にはなりません。

ペンタ

条件を保つには、配位子の総量も変えるの?

イコール

はい。問1ではMLが増えるので、そのLも供給する必要があります。自由Lの0.0500に結合L約0.0514を足し、総Lは約0.101 mMになります。

7.次の問題でも、比から全量を分ける

自由な配位子濃度が分かっているときは、Kにその自由濃度を掛け、自由Mに対する各錯体の比を作ります。比を全部足した値で全金属を割れば自由M、そこへ各重みを掛ければ各錯体です。最後に全量と生成定数へ戻し、割合の分母に自由Mを含めるかを、問われた対象に合わせて決めます。

参考資料

生成定数と自由な化学種は、David Harvey『Analytical Chemistry 2.1』6.4、Metal-Ligand Formation Constants。全金属を各種へ数え上げる収支は6.7、A Systematic Approach to Solving Equilibrium Problems。配位子が競合して自由金属の分率へ影響することは9.3、EDTA Competes With Other Ligands、式9.5・9.6を参照しました。本稿の中性一座二配位子モデル、数値配分、図と確認問題は教材用の独立計算です。

コメント

タイトルとURLをコピーしました