前回の弱酸、強酸の違いから、今回は「弱酸なら、いつもほとんど電離しないの?」を考えます。酢酸の形と割合を、pHが決まっている一つの例で計算しましょう。
弱酸でも、電離する割合は条件で変わる
酢酸は弱酸です。水中で、酢酸分子CH3COOHと酢酸イオンCH3COO−の間に酸解離の平衡があります。「弱酸」は、この二つのうちイオンになる割合がいつも小さい、という意味ではありません。同じ酸でも、濃度や周囲のpHで割合が変わります。
略して、酢酸をHA、酢酸イオンをA−と書きます。反応は次のとおりです。
CH3COOH + H2O ⇌ H3O+ + CH3COO−
右向きには酢酸が水へH+を渡し、左向きには酢酸イオンが受け取ります。式の左右でCは2個、Hは6個、Oは3個。電荷も左は0、右は(+1)+(−1)=0でつり合います。以後、水中のH3O+を簡潔にH+と表します。
問題:pH 5に保つと、酢酸は何%電離する?
溶液中の酢酸分子と酢酸イオンを合わせて0.0100 mol、最終的な溶液の体積を1.00 Lとします。添加後も周囲の溶液をpH 5.0に保ち、酢酸のpKaは4.76とする。このときの電離度αと、酢酸・酢酸イオンそれぞれの濃度を求めてください。
「pHを保つ」は、十分な容量の緩衝液で変化を小さくする、または外からの酸・塩基添加でpHを制御する条件を想定し、この計算では5.0に固定する意味です。酢酸だけを純水に入れると、その平衡に応じてpHも決まります。自動的にpH 5.0になる例ではありません。
温度は一定とします。厳密なpHと酸解離定数Kaは、濃度の代わりに「活量」で定義します。ここでは希薄水溶液として水の活量と各成分の活量係数を約1とする近似を使い、濃度で計算します。pKa=4.76はこの問題の与えられた値で、途中で別の概数へ置き換えません。

ペンタpH 5が先に決まっているね。酢酸が出したH⁺だけを数えるの?
イコールこの例のH⁺濃度は、周囲の溶液の条件で決まっています。酢酸だけがH⁺の供給源とは限らないので、[H⁺]と酢酸イオン濃度を等しいと置きません。
ペンタじゃあ、酢酸0.0100 molは何に使うの?
イコールHAとA⁻を足した総量に使います。pHから二つの形の比を求め、その総量を比に沿って分けると電離度が出ます。
1.「総濃度」と「一つの形の濃度」を分ける
[ ]は、平衡になったときの各成分の濃度(mol/L)を表します。0.0100 molを最終体積1.00 Lで割った総濃度Cは0.0100 mol/Lです。周囲の溶液にも酢酸や酢酸イオンがあるなら、その分もCに含めます。酢酸が電離しても、酢酸の骨格が消えるのではなく、HAからA−へ形が変わります。
C = [HA]+[A−] = 0.0100 mol/L
α = [A−]/C
電離度αは、二つの形を合わせた全量のうち、A−になっている割合です。上と下の濃度の単位が消えるので、αには単位がありません。α×100で百分率になります。
2.pHから、酢酸イオン/酢酸の比を求める
濃度で表す酸解離の式をKa,cと書くと、次の関係になります。Ka,cは濃度の単位が残る定数です。
Ka,c = [H+][A−]/[HA]
≈ 10−4.76 mol/L = 1.7378…×10−5 mol/L
pH 5.0から、[H+]≈10−5.0 mol/L。平衡式の両辺をこの濃度で割ると、イオンの濃度/分子の濃度が出ます。
r = [A−]/[HA]
= Ka,c/[H+]
≈ (10−4.76 mol/L)/(10−5.0 mol/L)
= 105.0−4.76 = 1.7378…
rは二つの濃度の比なので単位はありません。「HAが1に対してA−は約1.738」という意味です。rが1を超えても問題ありません。全量のうちの割合αとは、まだ違う数です。
3.比を割合に直し、二つの濃度まで求める
HAを1とすると、A−はr、全体は1+rです。したがって、電離度はrを全体1+rで割ります。
α = r/(1+r)
= 1.7378…/(1+1.7378…)
= 0.634743… ≈ 0.635
約63.5%が酢酸イオンの形です。

割合が分かったら、総濃度0.0100 mol/Lを分けます。
[A−] = Cα
= 0.0100 mol/L × 0.634743…
≈ 0.00635 mol/L
[HA] = C(1−α)
= 0.0100 mol/L × 0.365257…
≈ 0.00365 mol/L
最終体積は1.00 Lなので、酢酸イオンは約0.00635 mol、酢酸分子は約0.00365 molです。電離度・濃度・物質量の三つが、ここまでで求まりました。

ペンタ比は1.738なのに、電離度は0.635。どちらもイオンの量じゃないの?
イコール分母が違います。比rはA⁻をHAだけで割り、電離度αはA⁻をHAとA⁻の合計で割ります。全体に占める割合だから、αは0から1の間です。
ペンタ残るHAは約36.5%。合わせて100%なら、0.0100 mol全部を数えたことになるね?
イコールそうです。イオン約0.00635 molと分子約0.00365 molを足すと0.0100 molに戻ります。二つの形に分かれても、酢酸に由来する総量は保たれます。
4.答えを、総量と平衡式へ戻して確かめる
まず、総濃度に戻るかを確認します。
0.00635 mol/L + 0.00365 mol/L
= 0.0100 mol/L
次に、途中で丸める前の二つの濃度を平衡式へ戻します。
(1.00×10−5 mol/L)
×(0.006347433… mol/L)/(0.003652567… mol/L)
= 1.7378…×10−5 mol/L
= Ka,c
[A−]と[HA]を逆に入れると、この定数に戻りません。多めの桁は式を確かめるためで、測定精度が増えたという意味ではありません。
[A−]は約0.00635 mol/Lなのに、[H+]は約0.0000100 mol/Lです。この違いも固定pH条件に合っています。溶液全体の電荷は、pH制御に関わるほかのイオンも含めてつり合います。酢酸イオンとH+だけで溶液全体の電荷を数えることはできません。
5.pH 3、5、7を同じ定数で比べる
ここでも、添加後のpHをそれぞれの値に保つ条件を引き継ぎます。各pHについて、同じr=10pH−4.76、α=r/(1+r)を使います。
| 固定pH | 比r A−/HA | 電離度α (割合) |
|---|---|---|
| 3.0 | 0.01738 | 0.0171 約1.7% |
| 5.0 | 1.738 | 0.635 約63.5% |
| 7.0 | 173.8 | 0.994 約99.4% |

この結果から、弱酸である酢酸でも、周囲のpHによっては大部分がイオンの形になれると分かります。弱酸か強酸かという性質と、ある条件での電離度は区別しましょう。強酸も、通常の希薄水溶液ではほぼ完全に電離すると扱うのであり、pHや溶媒に関係なく厳密にα=1という意味ではありません。
理解確認:pHとpKaが同じなら?
同じ近似のもと、pHを4.76に保ち、総濃度は0.0100 mol/Lのままとします。r、α、[HA]、[A−]を求めてください。
答えと確かめ方
r=104.76−4.76=1。α=1/(1+1)=0.500、つまり50%です。[HA]=[A−]=0.00500 mol/Lとなり、足すと総濃度0.0100 mol/Lに戻ります。二つの濃度が等しい位置を、曲線のα=0.5でも確かめられます。
まとめ
電離度を求めるときは、まず「pHは与えられているのか、自分で求めるのか」を確認します。今回は外から保つpHで二つの形の比を求め、総濃度をその比に分けました。pH 5.0、pKa 4.76では約63.5%が酢酸イオンで、[A−]≈0.00635 mol/L、[HA]≈0.00365 mol/Lです。
酢酸だけを純水に溶かす場合は、pHを固定せず、総量・電荷のつり合い・水の自己解離を合わせてpHそのものを求めます。今回の式へ好きなpHを入れて、その溶液の答えにすることはできません。
式の意味をもう一度確認したいときは酸解離定数とはも参照してください。
参考資料
- 島津製作所「pKaと解離平衡」§1–3:pHと解離状態の関係、濃度近似の条件。数値は本稿の与件pKa=4.76で計算。
- OpenStax Chemistry 2e §14.6:緩衝液の作用と容量、酸・共役塩基の平衡比。
- OpenStax Chemistry 2e §14.3:酸解離の平衡と、電離度の濃度依存。
- IUPAC Gold Book「pH」:活量によるpHの定義。


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