金属に配位子が一つ、次にもう一つ結びつくとき、段階ごとの生成定数から全体の生成定数をどう求めるのでしょうか? 反応式と、平衡で自由に残る配位子の量を対応させて考えます。

1.安定度定数が表す「安定性」
安定度定数(生成定数)は、指定した錯体生成反応の平衡定数です。金属を中心に、配位子と呼ばれる分子やイオンが結びついたものが錯体です。ここでは、同じ温度・溶媒の仮想系を使います。実在する銅錯体などの測定定数ではありません。
Mは対象のLがつく前の溶存金属種、Lは錯体に結びついていない自由な配位子、MLはLが一つ、ML2はLが二つついた錯体です。電荷と配位した溶媒の表記は省略します。ML2の2はLの個数で、溶媒も含めた総配位数を2と決める記号ではありません。

まず、最初の一つが加わる反応を見ます。
M + L ⇌ ML
K1 = a(ML) / {a(M) a(L)}
aは、標準状態に対する「活量」という単位を持たない量です。生成定数では、生成したMLを分数の上側、自由なMとLを下側に置きます。K1が大きい意味は、同じ反応・基準で自由なLの活量が同じなら、平衡でのa(ML)/a(M)が大きいことです。一本の結合のエネルギーや、錯体が壊れるまでの時間は、Kの数字だけでは求められません。
2.一つずつ加わる定数と、まとめた定数
二つ目のLが加わる反応には、別の定数K2を使います。K1とK2が逐次安定度定数(逐次生成定数)です。段階が違うので、定数の値も同じとは限りません。
ML + L ⇌ ML2
K2 = a(ML2) / {a(ML) a(L)}
この2本の反応式を足すと、最初の式でできるMLと、次の式で使うMLが差し引きで消えます。残るのは、M一つにLが二つ加わる全体の式です。
M + 2L ⇌ ML2
β2 = a(ML2) / {a(M) a(L)2}
β2を全安定度定数(総括生成定数)と呼びます。下側のa(L)2は、全体の式でLが2個分加わることに対応します。
反応式は足すのに、なぜ定数は掛ける?
K1とK2の分数を掛けてみます。上側はa(ML) × a(ML2)、下側はa(M)a(L) × a(ML)a(L)です。上側と下側の同じa(ML)を省くと、β2の式が残ります。

β2 = K1K2
同じ温度・溶媒・活量基準で定義した定数どうしを掛けます。片方だけ違う条件で測った値を、そのまま同じ式に混ぜることはできません。
ペンタ反応式を足すなら、K₁とK₂も足せばいい?
イコール式ではMLを消すために足します。定数は比だから掛けます。仮にK₁=10³、K₂=10²なら、β₂=10³×10²=10⁵です。
ペンタ資料にlog₁₀K₁=3、log₁₀K₂=2とあったら、3と2は足していいの?
イコールはい。掛け算の対数は足し算になるので、log₁₀β₂=3+2=5です。定数そのものは10⁵、対数で表した値は5、と区別します。
3.一問を解く:同じ定数でも、自由Lの量が必要
問題:仮想系でK1=1000、K2=100とします。平衡で自由な[L]=0.0100 mol/L、金属の全濃度CM=0.00210 mol/Lです。[M]、[ML]、[ML2]を求めましょう。
ここではM、L、ML、ML2だけを扱い、他の錯体や配位子の酸解離は考えません。数値計算では各活量係数を1とするモデルを使い、a(X) = [X]/c°、c°=1 mol/Lとします。[X]は平衡でのモル濃度です。濃度を標準濃度で割って、活量に対応する単位のない数にします。
自由なLの値を規格化すると、[L]/c°=(0.0100 mol/L)/(1 mol/L)=0.0100。単位が消えます。K1の式を並べ替えると、
[ML]/[M] = K1([L]/c°)
= 1000 × 0.0100 = 10
MLはMの10倍の濃度です。同様に二段目は、
[ML2]/[ML] = K2([L]/c°)
= 100 × 0.0100 = 1
ML2はMLと同じ濃度です。したがって[M]:[ML]:[ML2]=1:10:10になります。どの種もMを一つずつ含むため、金属の全濃度はCM=[M]+[ML]+[ML2]です。
比の合計は1+10+10=21。全濃度0.00210 mol/Lを21で割ると、1目盛り分は0.000100 mol/Lです。これが自由な[M]で、残る二つはその10倍です。
[M] = 0.000100 mol/L
[ML] = 0.00100 mol/L
[ML2] = 0.00100 mol/L
戻して確かめる:3種の和は0.00210 mol/L。全定数でも、β2=105と[L]/c°=0.0100から、[ML2]/[M]=β2([L]/c°)2=105×0.01002=10。求めた0.00100/0.000100=10と一致します。

平衡式に入れるLは、全部のLではない
この平衡では、自由なLが0.0100 mol/L、MLに含まれるLが0.00100 mol/L分、ML2に含まれるLが2×0.00100 mol/L分あります。配位子の全濃度は、
CL = [L] + [ML] + 2[ML2]
= 0.0100 + 0.00100 + 2 × 0.00100
= 0.0130 mol/L
金属を数えるときのML2は1個分、配位子を数えるときは2個分。この違いを区別します。平衡式の[L]へ入れるのは自由な0.0100 mol/Lで、全量0.0130 mol/Lではありません。
ペンタK₁が1000もあるなら、金属は必ず全部MLになると思っていたよ。
イコール自由なLの量も必要です。この例では[ML]/[M]=10で、自由なMも残ります。二段目もあるので、MLとML₂の両方へ分かれます。
ペンタ配位子は全部で0.0130 mol/Lあるから、最初からその値を[L]に入れていい?
イコール[L]は錯体につかず自由に残っている濃度です。ML中のLとML₂中のLまで入れると、別の量を代入してしまいます。全量だけが与えられた場合は、この物質収支と平衡式を一緒に解いて自由な[L]を求めます。
4.資料の定数と単位を読む
ここまでのKとβは、無次元の活量で定義しました。一方、濃度そのものの比を「濃度で表した生成定数」として使う資料もあります。その場合は、
K1,c = [ML] / {[M][L]}
β2,c = [ML2] / {[M][L]2}
K1,cの単位はL/mol、β2,cはL2/mol2です。活量係数を1とする今のモデルでは、K1=c°K1,c、β2=(c°)2β2,cとなります。c°の数値が1でも、濃度の単位を消す役割は残ります。対数で表すときも、単位のないKやβに対してlogを取っています。
Lがn個加わる同じ考え方なら、βn=K1K2…Knです。濃度の商βn,cの単位は濃度の−n乗で、活量係数を1とすればβn=(c°)nβn,c。実際の錯体では、生成反応、温度、溶媒、活量や濃度の基準が記された出典の値を使います。
5.自分で確かめる
① 定数の積:同じ基準でlog10K1=2、log10K2=1なら、β2とlog10β2はそれぞれいくつでしょうか?
② 自由Lが少ない場合:本問と同じK1=1000、K2=100で、自由[L]だけが0.00100 mol/Lなら、[ML]/[M]と[ML2]/[ML]はいくつですか? 活量係数を1、c°=1 mol/Lとします。
③ Lの数え方:本問の[ML2]=0.00100 mol/Lが含むLは何mol/L分ですか? なぜその濃度を自由な[L]へ足して平衡式に入れないのでしょうか?
答えと確かめ方
① log10β2=2+1=3、β2=103=1000です。定数の積102×101も1000になります。
② [L]/c°=0.00100なので、[ML]/[M]=1、[ML2]/[ML]=0.100。同じ定数でも、自由Lが本問の10分の1なら、この二つの比もそれぞれ10分の1です。[ML2]/[M]は1×0.100=0.100で、β2([L]/c°)2=105×0.001002=0.100とも一致します。
③ Lが二つ分あるので、2×0.00100=0.00200 mol/L分です。これは錯体に結びついたLです。平衡式のa(L)や[L]は自由なLだけを表すため、配位子の全量と区別します。
まとめ
- 生成定数は、指定した錯体生成反応の平衡での活量の比です。自由な配位子の量と合わせて、錯体の割合を考えます。
- 逐次定数はLが一つずつ加わる段階の定数。全定数はまとめた反応の定数で、同じ条件・基準の逐次定数の積になります。
- ML₂を金属の収支では1個分、配位子の収支ではL2個分と数えます。自由なLと配位子全量を混ぜません。
- 平衡での生成のしやすさと、一本の結合エネルギーや変化の速さは別に確かめる量です。
根拠を確かめる資料
- OpenStax Chemistry 2e 15.2:錯体生成定数の定義と、自由な金属・配位子を用いた平衡式。
- OpenStax Chemistry 2e 13.2:標準状態に対する単位のない比、反応を組み合わせた定数の積、平衡定数だけでは速さが分からないこと。
- 東京薬科大学・化学平衡論「金属錯体生成反応」:1ページ目の逐次生成定数と全錯生成定数の関係。本文の1000・100という数値と計算問題は、この資料の測定値ではなく独自の仮想例です。
いかがでしたか?最後までご覧頂きありがとうございました!
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