回転準位があるのに吸収しない?―準位差・永久双極子・始状態を分ける

分析化学
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回転定数B̃ = 1.60 cm⁻¹の二原子分子を、結合長を固定した剛体回転子として扱います。J=1からJ=2へ上がる純回転吸収の候補は、何cm⁻¹でしょうか。 永久双極子があり、測定開始時にJ=1を占有する分子がいるとします。準位の高さを求め、その差を光の波数へ結び付けましょう。

解く問題の与件
回転定数B̃ = 1.60 cm⁻¹、準位の式 EJ/(hc) = B̃J(J+1)
始状態J=1 → 終状態J=2。Jは回転の量子数。
同じ振動・電子状態の中での、一光子・電気双極子による純回転吸収。
永久双極子は非ゼロ、始状態J=1に初期占有あり。弱い光を入れた初期の応答を考える。
求める量:吸収候補の波数ν̃(cm⁻¹)と、この遷移が選択則を満たすか。

この一対を解いた後、0→1と比べ、双極子がゼロの場合や始状態が空の場合にも同じ答えを使えるか確かめます。

ペンタとイコールが本を開き、準位と吸収の問いを考える
準位の線と吸収の線は、同じものではありません。まず上下の差を計算し、その遷移が光と結び付く条件を調べます。

1.結合長を固定した剛体二原子。Jは回転の量子数

二つの原子の間隔を固定し、慣性モーメントIが一定の剛体回転子を考えます。ここでは同じ振動・電子状態の中の、一光子・電気双極子による純回転吸収を扱います。

回転量子数J = 0,1,2,…。
EJ/(hc) = B̃J(J+1)。
与件:回転定数B̃ = 1.60 cm−1。

hはプランク定数、cは光速です。EJはエネルギーですが、hcで割った高さを波数と同じcm−1で表します。この式のJは整数の量子数で、エネルギーの単位ジュールのJとは別です。B̃の上のチルダは、回転定数を波数の単位で表した記号です。図のBも、この波数表示の回転定数を指します。

J=0:1.60×0×1 = 0 cm−1。
J=1:1.60×1×2 = 3.20 cm−1。
J=2:1.60×2×3 = 9.60 cm−1。

この回転式ではJ=0の準位そのものが高さ0にあります。Jが増えると、隣との間隔も広がります。現実の高回転状態で起きる結合の伸びなどは、ここで固定した剛体模型には加えません。

2.吸収で使うのは準位の高さではなく、隣との正の差

電気双極子純回転遷移の選択則はΔJ=±1です。エネルギーが上がる吸収ではJ→J+1、ΔJ=+1を使い、終状態の高さから始状態の高さを引きます。

0→1:ΔE/(hc) = 3.20−0 = 3.20 cm−1。
1→2:ΔE/(hc) = 9.60−3.20 = 6.40 cm−1。
一般にはB̃{(J+1)(J+2)−J(J+1)}
= 2B̃(J+1)。
回転準位の高さ0、3.20、9.60と、隣接吸収の差3.20と6.40を異なる矢印で示す
図1|青い準位線の9.60はJ=2の高さです。そこへJ=1から上がる矢印の差は、9.60−3.20=6.40 cm⁻¹です。矢印の長さも3.20と6.40の比1:2で描いています。

光子のエネルギーhcν̃がΔEに合えば、候補の線位置はν̃=ΔE/(hc)です。最初の0→1だけは始状態の高さが0なので、終状態の3.20と差が同じ値になります。次の遷移ではその一致は続きません。

主問いの答え:1→2の吸収候補は6.40 cm⁻¹
ΔJ=2−1=+1なので、この電気双極子純回転の選択則を満たします。

光子が渡すエネルギーは終状態−始状態の正の差です。hcν̃=E₂−E₁をhcで割るので、準位の高さをcm⁻¹で計算しておけば、9.60−3.20をそのまま波数にできます。ここへ終状態の高さ9.60だけを入れると、始状態にすでにある3.20を重ねて数えてしまいます。

元の準位へ戻すと、始状態の高さ3.20に光の分6.40を足して9.60 cm⁻¹になり、J=2の高さと一致します。一般式でも、6.40/[2×(1+1)] = 1.60 cm⁻¹と与件のB̃へ戻ります。

ペンタ

J=2の高さが9.60だから、1→2の吸収も9.60 cm⁻¹では?

イコール

J=1にはすでに3.20があります。追加する差は9.60−3.20=6.40です。光子は準位の全高を渡すのでなく、二準位の差を渡します。

ペンタ

なら9.60の光を使って、0から2へ直接上がればよい?

イコール

エネルギー差だけなら9.60です。でもΔJ=2なので、この一光子・電気双極子純回転の選択則では許容されません。差が合うことと許容性は別の検査です。

隣接準位差2B(J+1)を計算し、波数3.20と6.40の位置だけを印で示す
図2|3.20と6.40は、許容条件と占有がそろった場合の吸収候補の位置です。点は波数の位置を示しており、ピークの強度や形状を表していません。

3.永久双極子ゼロなら、この純回転吸収は結び付かない

二原子分子の永久双極子が非ゼロなら、回転する分子の双極子と光の電場が結び付き、ΔJ=±1の電気双極子純回転遷移が許容されます。永久双極子がゼロなら、この純回転の遷移双極子もゼロとなり、同じ準位差があっても対象の吸収線は出ません。

図3ではB̃=1.60 cm−1を共通にした教材模型で、永久双極子を「あり」「ゼロ」と比べます。準位差を固定し、光との結び付きが変わる効果を見ます。

ゼロ双極子の模型でもEJの式は残ります。吸収を許す光との結合がないことは、回転準位の不存在ではありません。この結論を使う範囲は、ここで指定した電気双極子純回転吸収です。別の観測方法の許容条件とは区別します。

4.許容でも、吸収する始状態が空なら、その線は出ない

永久双極子があっても、1→2の吸収にはJ=1の占有が必要です。J=0だけにいる初期試料なら、0→1の3.20 cm−1は吸収候補ですが、1→2の6.40 cm−1を吸収する分子はまだいません。ここでは弱い光を入れた初期の応答を考え、光で後から占有が変わる過程を混ぜません。

同じ回転定数に対し、永久双極子と初期のJ0/J1占有を変え、3.20と6.40の候補線を区別する
図3|AとBは同じ占有と準位差ですが、Bは対象の電気双極子純回転線を持ちません。AとCはともに双極子ありですが、CではJ=1が空なので1→2の初期吸収がありません。
ペンタ

双極子がゼロなら、J=1や2の準位もなくなる?

イコール

準位の高さはB̃J(J+1)で計算できます。ゼロになるのは、今回の光の電場と結び付く純回転遷移です。準位と吸収矢印を分けて見ます。

ペンタ

双極子がある方なら、3.20と6.40の二本が必ず同じ強さで出る?

イコール

始状態J=0と1の占有をまず確認します。J=1が空なら6.40の初期吸収は出ません。両方に占有があっても、温度などの条件がないので、二本の強度を同じとは決められません。

今回与えられたB̃から決まるのは準位と差です。実際の線強度には始状態の占有数や光との結合などが関わります。温度や占有数が未指定なので、どちらが何倍強いかという数値や、最強の線の位置までは求めません。

5.同じ9.60でも、どの二準位を結ぶかで判断する

問1 永久双極子ありの同じ模型で、9.60 cm−1の光を考えます。0→2と2→3では、どちらがこの選択則で許容ですか。必要な始状態も示してください。

解答:J=3の高さは1.60×3×4=19.20 cm−1。
0→2:差9.60、ΔJ=2なので対象の電気双極子遷移では不可。
2→3:差19.20−9.60=9.60、ΔJ=+1なので許容。
後者の吸収にはJ=2の初期占有が必要です。

問2 測定開始時にJ=0だけが占有された試料で、3.20と6.40 cm−1の弱い光を入れます。初期の吸収候補を、永久双極子あり・ゼロの二模型で選んでください。

解答:双極子ありでは、3.20の0→1だけが初期吸収の候補。
6.40の1→2は始状態J=1が空なので初期吸収なし。
双極子ゼロでは、この電気双極子純回転線はどちらもなし。
それでも両模型に0、3.20、9.60,…の回転準位はあります。

参考資料

剛体二原子の準位・隣接差・双極子の選択条件はOpenStax University Physics 9.2, Eqs.9.6–9.10、電場と分子双極子の結合、始状態、エネルギー一致と遷移双極子はMIT 5.61 Lecture 19, pp.2, 5–7を参照しました。

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