NMR装置を300 MHzから600 MHzへ替えると、同じ二重線の中心と二本の線はどこに現れるでしょうか。中心2.00 ppm、結合定数J = 7.00 Hzの信号について、中心の参照からのHz差、各線の位置、二本の間隔を求めます。装置のMHzが2倍になったとき、どの量が2倍になり、どの量がそのままかを計算しましょう。
中心のppm値とJのHz値はどちらの装置でも同じです。一方、中心の参照からのHz差は600から1200 Hzへ増え、二本のppm間隔は約0.02333から0.01167 ppmへ減ります。この違いを、中心と間隔を分けて追います。

1.二本で一組の中心と、二本の間隔を分ける
一つの核の信号が二本に分かれたものを二重線(ダブレット)と呼びます。今回は、一つのスピン1/2核との結合による、弱結合・一次近似の二重線を扱います。二本の中点が信号の中心、二本の周波数の差が結合定数Jです。中心の値と線間隔の値は、同じものではありません。
この問題の300 MHzと600 MHzは、装置の測定周波数ν0です。ppmをHzへ換算するとき、参照信号の周波数をν0で置き換える通常の近似を使います。以下では、参照の位置を0 Hzとして中心と各線の位置を数えます。
2.2.00 ppmの中心は、基準から何Hz離れるか
ppmは百万分の一を表す相対尺度です。参照から中心までの周波数差をΔνcenterとすると、δ(ppm)≈ 10⁶×Δνcenter(Hz)/ν0(Hz)。ν0をMHzで書けば、1 MHz = 10⁶ Hzの因子が打ち消し合います。
300 MHz:2.00×300 = 600 Hz
600 MHz:2.00×600 = 1200 Hz
600 Hzと1200 Hzは、参照から離れた量です。全共鳴周波数が600 Hzや1200 Hzという意味ではありません。1 ppmが300 Hz分に当たる装置と、600 Hz分に当たる装置で、同じ2.00 ppmをそれぞれ読み替えています。

ペンタ600 MHzでは1200 Hzになるなら、化学シフトが変わったの?
イコールHzで表した参照からの差は変わりますが、ppmへ戻すと1200/600 = 2.00です。300 MHzでも600/300 = 2.00で、同じ化学シフトです。
ペンタでは1200 Hzは600 MHz装置の全共鳴周波数ではなく、基準からの小さな差なんだね?
イコールそうです。参照の周波数は約600 MHzで、1200 Hzはそこからの差です。装置のMHz、参照からのHz差、相対位置のppmを分けて読むと混乱しません。
3.線間隔Jは7.00 Hzのまま、ppmでは半分
弱結合・一次近似の二重線では、二本は中心から±J/2にあります。J = 7.00 Hzなら±3.50 Hz。600 MHzへ替えても、同じ化学状態の結合定数JのHz値は変わりません。参照からの線位置は次のようになります。
差:603.5−596.5 = 7.0 Hz
600 MHz:中心1200 Hz → 1196.5 Hz、1203.5 Hz
差:1203.5−1196.5 = 7.0 Hz
一方、Jをppmの線間隔へ換算すると、ν0(MHz)で割ります。中心をppmに直す操作と同じ換算です。
300 MHz:7.00/300 ≈ 0.02333 ppm
600 MHz:7.00/600 ≈ 0.01167 ppm
では、各線そのものは何ppmにあるでしょうか。二本の間隔の半分J/2をppmへ換算し、中心2.00 ppmから引く・足すことで求めます。中心から片側の線までがJ/2、二本の線の間がJです。
図2では、この二本の位置を同じppm軸に置いています。中心は両段とも2.00 ppm。600 MHzでは1 ppmが600 Hzに当たるため、同じ3.50 Hz分のずれはppmでは小さくなります。


ペンタ図2では600 MHzの線が近く見える。Jも小さくなった?
イコール横軸がppmなので近く見えるのです。300では7/300、600では7/600です。図3の同じHz軸では二本とも±3.5にあり、間隔は7 Hzのままです。
ペンタ中心から3.5 Hzのところに線があるなら、Jは3.5 Hzではないの?
イコールJは中心から片側までの距離ではなく、二本の差です。+3.5から−3.5を引くと7.0 Hzです。二本を一組として数えることが大切です。
| 量 | 300 MHz | 600 MHz |
|---|---|---|
| 中心 δ | 2.00 ppm | 2.00 ppm |
| 中心の参照からの差 | 600 Hz | 1200 Hz |
| 二本の間隔 J | 7.00 Hz | 7.00 Hz |
| 二本の間隔(ppm) | 約0.02333 ppm | 約0.01167 ppm |
| 線位置(ppm) | 約1.98833と2.01167 | 約1.99417と2.00583 |
最後に、線位置から与件を取り戻して確かめます。300 MHzでは二本のHz位置の平均が(596.5+603.5)/2 = 600 Hzで、600/300 = 2.00 ppm。差は603.5−596.5 = 7.00 Hzです。600 MHzでも平均は1200 Hz、1200/600 = 2.00 ppm、差は1203.5−1196.5 = 7.00 Hzになります。
ppm位置から戻す場合も、二本の平均は2.00 ppmです。二本のppm差に装置のMHz値を掛ければ、J = 7.00 Hzへ戻ります。 上のppm表示は丸めているので、正確な確認には2.00±3.50/300、2.00±3.50/600という丸める前の式を使います。中心が同じことと、線間隔が同じことを別々に確認できました。
4.この二本線の読み方が使える条件
同種の二つのスピンでいう弱結合条件は、結合相手との化学シフトの周波数差がJより十分大きいことです。参照からの600 Hzや1200 Hzが大きいだけでは、その条件を確かめたことになりません。比較する相手は参照物質ではなく、結合している核です。今回は両装置で弱結合・一次近似が使えると与えました。
強結合になると、単純な中心±J/2という線位置や同じ高さの二本線を、そのまま適用できない場合があります。また試料の化学状態や測定条件が変われば、化学シフトや結合の値が変わることもあります。装置周波数だけを変える今回の比較とは分けて考えます。
5.自分で確かめる:400 MHzと800 MHzなら
別の同じ試料・化学状態・参照を保つ弱結合二重線で、中心δ = 3.25 ppm、J = 8.00 Hzとします。400 MHzと800 MHzで、①中心の参照からのHz差、②二本の線位置(参照からのHz差)、③線間隔のppm値を求めてください。全共鳴周波数や線幅の値は問いません。
解答 ①3.25×400 = 1300 Hz、3.25×800 = 2600 Hz。②J/2 = 4.00 Hzなので、400 MHzでは1296と1304 Hz、800 MHzでは2596と2604 Hz。どちらの二本の差も8 Hzです。③8.00/400 = 0.0200 ppm、8.00/800 = 0.0100 ppm。中心δは3.25 ppm、Jは8.00 Hzのまま、ppmでの線間隔は半分です。
参考資料
OpenStax Organic Chemistry §13.3:化学シフトのppm尺度とHzへの換算
OpenStax Organic Chemistry §13.6:二重線と結合定数JのHz値
James Keeler, NMR and Energy Levels, Chapter 2:§2.1(PDF p.2)の尺度換算、§2.4(p.6)の弱結合二重線


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