各一次ならSN2と決めてよい?―消失速度から次数と生成経路を分ける

化学
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同じ温度・溶媒で、基質Sと試薬Nuの濃度を変えた三つの基質消失の初速度が与えられました。SとNuに関する次数、速度定数kとその単位を求め、三つの行すべてを説明できるか確かめましょう。その結果だけで、置換の機構SN2と決められるでしょうか。

主問の与件:速度vSの単位はmol/(L s)=M/s、濃度はmM。
A:[S] 5.00 mM、[Nu] 20.0 mM、vS 2.00×10−6 M/s
B:[S] 10.0 mM、[Nu] 20.0 mM、vS 4.00×10−6 M/s
C:[S] 5.00 mM、[Nu] 40.0 mM、vS 4.00×10−6 M/s

答えはSについて一次、Nuについて一次、総次数二次です。vS=k[S][Nu]、k=0.0200 L/(mol s)となり、三つの行を同じkで説明できます。機構を選ぶには、生成物やその生成速度などの情報も合わせます。まず次数とkの計算を最後まで進めます。

ペンタとイコールがノートを前に、速度の数値と生成物の違いを相談している。
消えた速さが同じでも、できた物質は同じでしょうか。数値の比較と、結合がどう変わったかを分けて読みます。

1.初速度は、何が減る速さかを決めて読む

Sは基質、Nuは求核剤として働く試薬です。その濃度を[S]、[Nu]と書きます。同じ試薬が塩基としても働き得る場合を考えます。温度・溶媒・その他の条件は同じで、示した二濃度だけを変えた初速度データです。

vS = −d[S]/dt (基質Sの消失速度)
[S]が減少するとd[S]/dtは負、前の負号によりvSは正。
初速度の単位:mol/(L s) = M/s
AからBはSだけ倍で速度倍、AからCはNuだけ倍で速度倍。各一次、総二次。
図1|比べる相手をAにそろえます。BとCでは一方が半分、もう一方が二倍なので、速度が同じという事実だけから個別の次数は決まりません。

2.片方を一定にした速度比から、次数を求める

測定範囲でvS = k[S]m[Nu]nという単一のべき乗形を当てはめます。A→BではNuが一定なので、速度比2 = (10.0/5.00)m = 2mよりm = 1。A→CではSが一定なので、2 = (40.0/20.0)n = 2nよりn = 1です。

vS = k[S][Nu]
Sについて一次、Nuについて一次、総次数は1+1 = 2。

この次数は、与えられた初速度の比較から求めたものです。反応式の係数と次数は別です。この三点に合う速度式の適用範囲は、ここで比較した条件です。

ペンタ

SもNuも二倍にしたら、速度も二倍?

イコール

それぞれ一次なので、倍率を掛けます。2×2=4倍です。片方だけを変えた測定の二倍と、両方を変えた予測を分けます。

ペンタ

BとCの速度が同じなのは、片方が半分、もう一方が二倍だから?

イコール

求めた式なら、1/2×2=1で説明できます。次数を求める段階では、AとB、AとCを比べて各変化を独立に調べます。

3.mMをMへ直し、速度定数kを求める

Aの値を使います。1 mM = 10−3 mol/Lなので、5.00 mMは0.00500 M、20.0 mMは0.0200 Mです。

k = vS[S][Nu]
= 2.00×10−6 mol/(L s)(0.00500 mol/L)(0.0200 mol/L)
= 0.0200 L/(mol s)

単位は{mol/(L s)}÷{mol2/L2}=L/(mol s)です。速度をM/sにそろえたので、濃度もMへ直します。mMの数値5.00と20.0をそのまま掛けると、濃度積の単位が違い、kの数値も変わります。

求めたkへ、三つの行の濃度を戻します。Aでは元の2.00×10−6 M/sへ戻り、BとCではそれぞれ4.00×10−6 M/sになります。

A:0.0200×0.00500×0.0200 = 2.00×10−6 M/s
B:0.0200×0.0100×0.0200 = 4.00×10−6 M/s
C:0.0200×0.00500×0.0400 = 4.00×10−6 M/s
各行とも、L/(mol s)×(mol/L)×(mol/L)=mol/(L s)です。

逆にBの速度を濃度積で割ると4.00×10−6/(0.0100×0.0200)=0.0200、Cでも4.00×10−6/(0.00500×0.0400)=0.0200 L/(mol s)です。一行で求めたkをほかの行で確かめると、濃度換算と次数の選び方を一緒に検算できます。

同じ速度定数0.0200L/(mol s)へA、B、CそれぞれのM単位の濃度を代入。濃度積は0.000100、0.000200、0.000200M二乗で、速度は各与件に一致。
図2 まず各行の濃度積を求め、同じkを掛けて速度へ戻します。BとCの積が同じなので速度も同じです。この一致は速度式の検算で、生成経路の内訳を決める検算とは別です。

両濃度を二倍にした[S] = 10.0 mM、[Nu] = 40.0 mMを、この模型へ代入して予測します。

vS = 0.0200 L/(mol s)×0.0100 mol/L×0.0400 mol/L
= 8.00×10−6 mol/(L s)
Aの4倍、BまたはCの2倍。

4.同じ二次速度式を、SN2もE2も与えられる

SN2は、求核剤が脱離基の結合した炭素へ入り、脱離基が出る一段階の置換です。通常のSN2速度式はv = kSN2[S][Nu]です。ここまでの各一次という結果と整合します。

しかしE2は、塩基が隣接炭素のHを取り、脱離基が外れて二重結合ができる一段階の脱離です。通常のE2速度式もv = kE2[S][Base]です。同じ試薬がNuとBaseの役割を担い、[Base]を同じ試薬濃度で表せるなら、二つの式は同じ濃度依存になります。

さらに両経路が並行し、各経路でSを1個消費する模型なら、Sの消失速度は二経路の和です。

vS = v置換 + v脱離
= k置換[S][Nu] + kE2[S][Nu]
= (k置換+kE2)[S][Nu]
置換のみk0.0200でも、置換k0.0120とE2k0.0080の和でも、AでS消失速度2e−6M/sを与える二候補。
図3|二つのkの内訳は、消失データを同じように説明する仮想候補です。模型Ⅱの置換1.20×10⁻⁶と脱離0.800×10⁻⁶を足すと、Aの消失速度2.00×10⁻⁶ M/sになります。三点だけでこの内訳を選んだわけではありません。

したがって今回の0.0200 L/(mol s)は、基質消失を表す実効的なkです。二次であることはSN2を支持する候補情報ですが、SN2だけが起きたことを証明する情報ではありません。

ペンタ

各一次だからSN2、と選べばよいと思ったけど?

イコール

E2も基質と塩基に各一次です。同じ試薬が求核剤・塩基の両方として働けば、Sの消失は同じ濃度依存を示せます。

ペンタ

Sが消えた量だけなら、置換と脱離のどちらで消えたか分からない?

イコール

そうです。生成物の結合を調べ、脱離基の位置にNuが入ったのか、隣接する炭素間に二重結合ができたのかを確認します。生成物別の速度なら内訳も調べられます。

5.追加情報は、生成した結合と原子の対応

二炭素のハロゲン化物とOH−を例に、区別すべき結合変化を図示します。脱離基Brが結合する炭素をCα、その隣の炭素をCβと名付けました。HβはCβに付いた水素のうち一つです。同じ二炭素を色で追います。

二炭素基質で、置換はCαのBrをOHで置換しCβのHβを保持。脱離はHβとBrを除きCβCα二重結合と水、Br−を作る。炭素二個の対応を色で保持。
図4|置換ならCα–O結合ができ、脱離ならCβ=Cα結合ができます。数値データのSは具体的な構造が未指定なので、この図は結合変化を読む二炭素の例です。どちらもSを1個消費するため、消失だけの測定では見分けられません。

図のHβ−OHは水です。反応物のOH−が持っていたHと、Cβから移ったHβの二つが水のHになります。置換でも脱離でも、炭素は二個のまま、BrはBr−として外れます。電荷も反応前のOH−の−1と、反応後のBr−の−1で一致します。

置換生成物を確認できれば、置換が起きたという情報が加わります。SN2とさらに照合する場合には、反応中心での後面攻撃に伴う立体的な反転など、速度と構造の情報を合わせます。R/Sの記号だけを自動的に入れ替えるのではなく、同じ原子・置換基の配置を追う必要があります。今回の二炭素図は不斉中心を持たないので、立体反転の判定には使いません。

6.予測と、経路別速度の小問

問1 同じ条件の速度模型で、[S] = 5.00 mMのまま[Nu]を10.0 mMにしたら、Sの消失速度はいくらですか。

解答:AからNuだけ半分なので、vSは半分。
0.0200×0.00500×0.0100 = 1.00×10−6 M/s。

問2 追加測定を行い、Aと同じ濃度条件で、置換生成物の初速度1.20×10−6 M/s、アルケンの初速度0.800×10−6 M/sを得たとします。二経路だけがあり、各S1個から各生成物1個ができ、初期に生成物の二次反応がない条件です。それぞれのkと、S消失速度との対応は?

解答:共通の濃度積は0.00500×0.0200 = 1.00×10−4 M2。
k置換 = 1.20×10−6/1.00×10−4 = 0.0120 L/(mol s)。
k脱離 = 0.800×10−6/1.00×10−4 = 0.00800 L/(mol s)。
和は0.0200 L/(mol s)、生成速度の和も2.00×10−6 M/s。

この追加データがあれば、消失速度の内訳を分けられます。最初の三つの消失速度だけでは、図3の二つの模型を区別できません。「次数を求める」「どの結合変化が起きたか調べる」「機構を照合する」は、異なる情報に答える問いです。

参考資料

SN2の濃度依存・消失速度・後面攻撃はOpenStax Organic Chemistry 11.2、E2の二次速度式と隣接C–H/脱離基の結合変化は11.8を参照しました。速度データ、候補の内訳、確認問題は教材用に独立計算しています。

次数を濃度と速度の比較から求める方法は、OpenStax Chemistry 2e §12.3 Rate Lawsも参照できます。

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