単置換シクロヘキサンが298 Kで平衡にあるとき、置換基Rが軸位axにある分子は全体の何%でしょうか。 赤道位eqから軸位axへ変わる標準自由エネルギー差は+6.00 kJ/molです。まず図で二つの形を確かめ、その差から比を求め、全体を分母にする割合へ直します。
答えは軸位が約8.153%、赤道位が約91.847%です。高い方の自由エネルギーを持つ軸位もゼロにはなりません。「軸位/赤道位の比」と「全体に占める軸位の割合」で分母がどう変わるかを追います。

1.椅子形は、平らではない六員環の形
シクロヘキサンは炭素六個が環を作ります。椅子形では環が平面から折れ曲がっているため、骨格式が少し見慣れない形になります。図の頂点が炭素で、隣の頂点どうしの線が結合です。同じ炭素を追えるよう、図では炭素を1~6と番号付けしました。
各炭素の置換位置には、環の軸に沿う軸位ax(axial)と、環の外側へ向かう赤道位eq(equatorial)があります。一方、up/downは環の平均的な面のどちら側にあるかです。紙面の上・下へ線が向くかだけで決めるものではなく、ax/eqとも別の分類です。

今回の単置換模型は、C1に中性の置換基Rが一つあり、同じ炭素にはHもあります。環反転では軸位と赤道位が入れ替わり、Rの結合先やup/downは保たれます。図の残りの水素は、環の見方に集中するため省いています。
ペンタ軸位のRが赤道位へ変わるなら、Rがdownへ裏返るの?
イコールaxとeqは入れ替わりますが、Rのupは保たれます。図の同じC1を追うと、反転後もRは環の上側にあります。
ペンタ同じC1のHはどうなるの?
イコールHはdownを保ち、eqからaxへ変わります。二つの向きを保ったまま、椅子形の折れ方が変わっています。
2.二つの有効配座と、eq→axの自由エネルギー差
ここからは、298 Kで赤道位eqと軸位axという二つの有効配座だけが平衡にある教材モデルを使います。環反転途中の形は、別の存在割合として足しません。二配座の活量係数を同じと扱い、無次元の活量比を、そのまま同じ試料中の物質量の比にできる条件とします。
正号は、指定したeq→axの向きでは軸位側の標準Gが高いという意味です。6.00 kJ/molは298 Kでの二配座の標準自由エネルギー差で、環反転の速さを決める活性化障壁の値ではありません。計算でも、比の分子をax、分母をeqにそろえます。

ここでの自由エネルギー差は、分子の形だけから得たポテンシャルエネルギー差ではなく、ΔG°=ΔH°−TΔS°として、その温度でのエンタルピーとエントロピーの寄与を含む与件です。各有効配座へまとめた等価な状態の数(縮退度)の効果も、このG°へ含めて扱います。そのため、比を求めた後で同じ状態数の倍率をさらに掛けません。
3.比を求めるとき、JとkJをそろえる
二配座が平衡にあるとき、標準自由エネルギー差とその活量比はΔG°=−RT ln Kで結ばれます。この問題では活量係数を同じと扱うので、Kは物質量比nax/neqでもあります。式をKについて解くと、自由エネルギー差を指数にしたBoltzmann型の重みの比を得ます。RがJ単位なので、6.00 kJ/molを6000 J/molへ直してから割ります。
指数の単位は、J/molをRTのJ/molで割って打ち消されます。Kは無次元で、意味は「赤道位1に対して軸位が約0.08877」です。ここまでは赤道位を1と置いたときの軸位の重みで、二配座の対応はeq : ax = 1 : 0.0887683です。この段階の分母は赤道位だけなので、まだ軸位の全体に対する%ではありません。
ペンタ比が0.08877なら、軸位は8.877%でよい?
イコールその比の分母は赤道位だけです。赤道位を100と置くと軸位は8.87683で、全体は108.87683になります。
ペンタ全体のうち軸位を求めるなら、その108.87683で割るんだね?
イコールはい。8.87683/108.87683=0.0815309です。比Kを使えばK/(1+K)となり、軸位の分率は約8.153%です。
4.全体を分母にして、8.153%へ直す
軸位の分率faxは、軸位の物質量を二配座の合計で割ったものです。nax = K neqを代入すると、比から分率への式が出ます。

二つの分率を足すと1です。また、fax/feq = 0.0887683へ戻り、−RT ln(fax/feq) = 6000 J/molとして元の自由エネルギー差も再現します。丸める前の値でこの往復を確認できます。
5.不利な配座がゼロ、とは言えない
有限の+6.00 kJ/molではKは正の小さな値になり、faxも0より大きくなります。「赤道位が有利」は、多くの分子がその配座を取るという意味であって、軸位という形が存在しないという意味ではありません。
ペンタ赤道位が約92%なら、軸位は考えなくてもよい?
イコール約8%も平衡に残ります。多数側を知るだけでなく、少数側が必要な場面では、その形と割合も確かめます。
ペンタ少数側でしか反応できないなら、反応速度も8%になる?
イコール割合だけでは速度は決まりません。反応の活性化障壁や配座間の交換速度なども必要です。いま得た8.153%は平衡の存在割合です。
補足すると、通常の椅子形のシクロヘキサンでE2のanti脱離を考える場合、隣接する脱離基とβ-Hがtrans-diaxialとなる反応配座を確認します。この幾何条件は、二配座の全存在割合とは別の問いです。本稿の中性Rの二配座模型から、E2の速度や生成物を数値で決めることはできません。
6.比の向きと全体の量を確認する
問1 平衡の二配座の合計が2.00 mmol/Lなら、軸位と赤道位はそれぞれ何mmol/Lですか。
問2 反応方向をax→eqへ逆に書いたときのΔG°とKは? 求めた軸位分率が逆転するかも確認してください。
計算の温度298 Kは指数のRTに入り、与えたΔG°にも対応しています。別の温度の割合を求めるときは、その温度におけるΔG°を使います。今回の6.00 kJ/molを、温度が変わっても必ず同じ値だとは扱いません。
参考資料
ax/eqと環反転はOpenStax Organic Chemistry 4.6、単置換環の配座の考え方は4.7、標準ΔG°とKは6.7、補足のE2幾何条件は11.9を参照しました。自由エネルギー差と同じ標準状態の活量比の関係は、Howard DeVoe『Thermodynamics and Chemistry』11.8、式11.8.9–11.8.11・11.8.21も参照しました。6.00 kJ/molと298 Kは、本稿の二有効配座の与件です。

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