298 Kに保った配位子置換反応で、圧力を50.0 MPa上げたとき、速度定数kは何倍になるでしょうか。 与えられた活性化体積は−8.00 cm³/molです。負号から増減を判断し、圧力差との積を計算して倍率まで求めます。
使う式はln(k2/k1)=−ΔV‡Δp/(RT)です。計算すると約1.18倍。なぜ体積の差が速度定数の比へつながるのか、二つの負号と単位の対応を確かめます。

1.比べるのは、同じ温度での速度定数k
ここでは、置換前の錯体Aが減る速さrを、Aの濃度cに比例する一次の速度則 r=kcで表せる条件を与えます。rをmol/(L s)、cをmol/Lで書くと、速度定数kの単位はs−1です。同じcで比べるなら、kが大きいほうがrも大きくなります。
低い圧力p1でのkをk1、高い圧力p2でのkをk2とし、圧力差をΔp=p2−p1とします。どちらも298 Kに保ち、同じ速度則と反応経路を比較します。圧力を上げることと温度を上げることは別の変化です。
2.活性化体積の負号は、どちら向きの変化を表すか
活性化体積の「体積」は、容器の体積が8 cm³縮むという意味ではありません。以下ではkの圧力応答を数える体積差として使います。
活性化体積をΔV‡(デルタ・ブイ・ダガー)と書きます。これは温度を固定して、圧力pを少し変えたときのln kの傾きから定義する量です。lnは自然対数です。kの単位が同じ二条件の比k/k1を使えば、対数の中は単位なしになります。
したがって、
(∂ ln(k/k1) / ∂p)T = −ΔV‡/(RT)
∂/∂pは、ほかの条件をそろえ、圧力だけを動かしたときの変化率という意味です。RとTは正なので、ΔV‡が負なら右辺は正。圧力を上げるほどln(k/k1)が上がり、kも大きくなります。逆にΔV‡が正なら、加圧でkは小さくなります。
ペンタ体積がマイナスなら、錯体の大きさもマイナスになる?
イコールここでの値は錯体そのものの体積ではありません。活性化体積は圧力でkがどう変わるかから定義します。遷移状態理論では、反応が進む途中の遷移状態と反応物との部分モル体積の差として考えます。差なので負にもなります。
ペンタ負なら、圧力を上げたときのkは小さくなる?
イコール式の前にもう一つ負号があります。−ΔV‡は正になるので、ln kの傾きは正です。今回の加圧ではkが大きくなる、と読みます。
反応物と生成物の部分モル体積の差を表す反応体積ΔrVとは、比べる相手が違います。活性化体積は途中の遷移状態と反応物の差として解釈する量で、生成物までの体積差をこの速度定数の式へ代入しません。
3.一定の傾きから、有限の圧力差へ
この区間でTとΔV‡が一定なので、ln(k/k1)は圧力に対して同じ傾きで増減します。圧力差を掛けると、p1からp2までの対数の差を求められます。
ln(k2/k1) = −ΔV‡Δp/(RT)
![横軸は圧力pと基準p1の差0から50MPa、縦軸は無次元のln[k(p)/k1]。ΔV負8cm3/molの青は右上がりで50MPaで0.16145。比較の正8cm3/molの橙は右下がりで負0.16145。](https://chemchemc.com/wp-content/uploads/2026/10/UNI028-02-pressure-log-ratio.png)
微積分で書く場合は、p1からp2へ−ΔV‡/(RT)を積分した式です。活性化体積が圧力に伴って変わるなら、一つの値を区間全体へ掛けることはできません。今回「区間内で一定」とした条件が、傾き×圧力差という計算を支えています。
4.cm³とMPaをそろえると、単位が消える
RをJ/(mol K)で使うため、活性化体積をm³/mol、圧力をPaへそろえます。1 cm=10−2 mなので、1 cm³=(10−2)³ m³=10−6 m³です。面積や体積では、長さの換算倍率も2乗、3乗します。
Δp = +50.0 × 106 Pa
ΔV‡Δp = −400 J/mol
Pa × m³ = (N/m²) × m³ = N m = J

= −(−400 J/mol) / [(8.314 J/(mol K)) × 298 K]
= 400 / 2477.572
≈ +0.16145
ペンタ50 MPaは50をそのまま入れればよい?
イコール今回のRはJを使っています。MPaをPaへ、cm³をm³へ直してから掛けます。50だけを入れると、MPaの10⁶倍を落としてしまいます。
ペンタ体積にも10⁻⁶があるなら、その二つだけは打ち消せる?
イコールはい。cm³からm³の10⁻⁶と、MPaからPaの10⁶が打ち消し合います。だから数値の積は−8×50=−400になりますが、単位がJ/molになる道筋を確認したうえで使います。
5.対数0.16145は、0.16145倍という意味ではない
lnの逆算はeの累乗、または電卓のexpです。底10の対数ではないので、100.16145には戻しません。
≈ 1.1752 ≈ 1.18倍
増加率 = (1.1752 − 1) × 100 ≈ 17.5%
追加の与件としてk1=0.0200 s−1なら、k2=1.1752×0.0200≈0.0235 s−1です。倍率には単位がなく、掛けた後のkには元のs−1が残ります。

ペンタkが約1.18倍なら、反応速度も必ず約1.18倍?
イコールr=kcで同じ濃度cを比べるなら、その倍率です。圧力を変えて実際のcも変わる場合は、r₂/r₁=(k₂/k₁)(c₂/c₁)なので、濃度の比も必要です。今求めたのはkの倍率です。
ペンタ負の活性化体積なら、新しい配位子が先に結び付く機構と決められる?
イコール符号は機構を調べる手掛かりですが、それだけでは一つに決まりません。溶媒との相互作用なども圧力応答に影響します。今回確かめられたのは、指定した区間と条件でkが増え、その倍率が約1.18ということです。
倍率を元の式へ戻すと、ln(1.175211…)≈+0.161448です。これに−RTを掛ければ−400 J/molとなり、ΔV‡Δpの積へ戻ります。圧力差を0にすれば指数も0でk₂/k₁=1になり、基準値と同じです。
6.符号と、使える圧力範囲を確かめる
問1 活性化体積を+8.00 cm³/molに替え、T=298 K、Δp=+50.0 MPa、区間内一定とします。kは増えますか。倍率も答えてください。
解答1 ln(k₂/k₁)=−0.161448…なので、倍率はexp(−0.161448…)≈0.8509。約0.851倍に減ります。ln比の負を、速度定数そのものが負だという意味にしないでください。指数へ戻せばkの比は正です。
問2 元のΔV‡=−8.00 cm³/molのモデルで、kを2倍にする圧力差を計算してください。モデルを確認した範囲はΔp=0~50.0 MPaだけとすると、その結果をこの範囲の予測として採用できますか。
Δp = RT ln 2 / (−ΔV‡)
≈ 2.15 × 108 Pa = 215 MPa
解答2 式の上では約215 MPaですが、確認した50.0 MPaの範囲を越えます。この結果を使うには、その圧力まで同じ速度則・反応経路・一定の活性化体積が成り立つか確認が必要です。50.0 MPa区間の与件だけから、2倍を実現できるとまでは判断できません。
参考資料
IUPAC, Glossary of Terms Used in Physical Organic Chemistry, “volume of activation”:温度固定での圧力微分による定義と、遷移状態理論での部分モル体積の差という解釈。
OpenStax, Chemistry 2e §12.3 Rate Laws:速度則と一次のr=kc。温度・活性化体積・圧力差・追加k₁の数値、図、確認問題は本稿の教材用条件です。

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