化学の基礎007|反応式の係数から、作れる量の上限へ
どちらの試薬が先になくなる? 限定反応物・理論収量・収率
Aが4つ、Bが6つあります。Aを1つとBを2つでPを1つ作るなら、Pはいくつ作れるでしょう。数が少ないAより、2つずつ使うBの方が先になくなります。化学反応でも、最初の量と、必要な比の両方で判断します。

1.1セットに必要な数を、まず並べる
A、B、Pはここでの仮想物質の記号です。初めのAは4つ、Bは6つ。1セット作るごとにAを1つ、Bを2つ減らします。図では、セットに使う丸を同じ行へ並べました。

この反応だけが進むと考えたとき、Bが生成量の上限を決めます。このような反応物を限定反応物と呼びます。Aのように、必要な量より多く投入されて残る方は過剰反応物です。
ペンタAは4つ、Bは6つなのに、Bが足りなくなるんだね。どう比べれば分かる?
イコールそれぞれが何セット分あるかを比べます。Aは4 ÷ 1 = 4セット分、Bは6 ÷ 2 = 3セット分です。両方を使うので、3セットまでしか作れません。
ペンタBを多めに足したら、今度はAが先になくなることもある?
イコールはい。A4つに対してBを10個にすると、Aは4セット分、Bは5セット分です。今度はAが上限を決め、Bが2つ残ります。
2.molでも「係数で割る」操作は同じ
同じ仮想反応で、Aを4 mol、Bを6 mol投入する場合も、必要な比はA:B:P = 1:2:1です。Aを1 molとBを2 mol使う反応を基準に、進められる量を比べます。
そこでAを3 mol、Bを6 mol使い、Pを3 mol生成します。Aの残量は4 − 3 = 1 mol、Bの残量は0 molです。投入molをそのまま比べるのではなく、係数で割って共通の物差しへ直すのが要点です。
3.水素と酸素から、生成する水の上限を求める
次は実在の物質を表す式で計算します。水素H₂を0.600 mol、酸素O₂を0.200 mol投入したとき、水H₂Oの理論量を求めます。初めに水はなく、この反応だけが進み、先に尽きる反応物をすべて使えると仮定します。
O₂側が小さいので、限定反応物はO₂です。O₂を0.200 mol使う反応では、係数に合わせてH₂をその2倍、水をその2倍として計算します。

この投入量から、指定した反応式の通りに得られる水の最大量が理論収量です。水のモル質量を教育用の与件18.016 g/molとすると、
molが消えてgが残り、質量になりました。途中の7.2064 gを保持し、最後に有効数字3桁へ丸めています。水素だけから0.600 molの水を作ろうとすると、必要なO₂は0.300 molになり、投入した0.200 molを超えます。これでも酸素が上限を決めることを確かめられます。
4.余った物質も含めて、保存を確かめる
水が0.400 molできても、使った気体の物質量0.400 + 0.200 = 0.600 molとは一致しません。反応で分子の組合せと分子数は変わるためです。保存を確かめるには、元素ごとの原子の物質量や全質量を比べます。
H₂中のH原子は1分子あたり2個、水中にも2個です。投入したH原子の物質量は2 × 0.600 = 1.200 mol。終了時は、余ったH₂中に2 × 0.200 = 0.400 mol、水中に2 × 0.400 = 0.800 molあり、合計1.200 molです。O原子は投入したO₂中に2 × 0.200 = 0.400 molあり、すべて水中の0.400 molへ移ります。
整合する与件としてH₂のモル質量を2.016 g/mol、O₂を32.000 g/molとすると、全質量も次のように一致します。
水の理論収量7.2064 gと投入全質量7.6096 gの差は、残ったH₂です。理論収量は目的物の量なので、余剰反応物の質量を足してはいけません。
5.収率の分母は、目的物の理論収量
同じ投入量から、純粋な水として回収できた量が6.12 gだったという仮想データを考えます。この回収量を実収量とし、理論収量に対する百分率を収率とします。
分母は水の理論収量です。投入全質量7.6096 gではありません。実収量が小さい理由には、反応が途中で止まる、副反応が起こる、分離・回収で目的物を失うなどがあります。収率の値だけで理由を一つに特定することはできません。
6.転化率の分母は、指定した反応物の投入量
ここでは図2の通り、O₂をすべて使って水をつくった場合に戻ります。前節の実収量6.12 gだけでは、各反応物の消費量は決まりません。転化率は、反応物がどれだけ消費されたかを表します。たとえばH₂の転化率は、H₂の消費量をH₂の初期量で割ります。
同じ反応でも、H₂とO₂の転化率は違います。そこで「何の転化率か」を指定します。図2の通りに反応し、生成した水をすべて回収できたなら、水の収率は100%ですが、過剰に入れたH₂の転化率は66.7%のままです。
ペンタH₂が残っていても、水の収率は100%にできるんだね?
イコールはい。水の理論量0.400 molは、初めからO₂の量で決まっています。その水を全部得れば収率100%です。余ったH₂を使い切ることは条件に入りません。
ペンタじゃあO₂を全部消費したら、必ず水の収率100%?
イコールそれだけでは決まりません。副反応へ使われたり、できた水を回収するときに失ったりすれば、O₂の転化率100%でも、水の収率は100%に届きません。
分母を言葉にする
収率:回収した水 ÷ 理論上得られる水。
H₂の転化率:消費したH₂ ÷ 初めに入れたH₂。
7.反応進行度ξは「係数で割った量」の記号
ここまで使った共通の物差しを、反応進行度ξ(クシー)という記号で表せます。単位はmolです。一般にaA + bB → pP、初期量をnA,0、nB,0と書くと、
minは括弧の中の小さい値を選ぶ操作です。a、b、pは係数で単位がなく、添字0は初期を表します。水の例ではξmax = 0.200 mol、水の係数p = 2なので、2 × 0.200 = 0.400 molへ戻ります。
この上限計算は、指定した一つの反応だけが進むモデルです。平衡で止まる場合や副反応がある場合、理論収量だけで実収量を予測できません。「先になくなる」は、反応式の係数と投入量から生成量の上限を判定する言い方です。消費される時刻を知るには反応速度の情報も必要です。
8.自分で確かめる
2A+B→PでAとBを各0.100 mol投入。どちらが上限を決め、Bは何mol残る?
A/2 = 0.0500 mol、B/1 = 0.100 molなのでAが限定反応物です。Bを0.0500 mol使い、0.0500 mol残します。
A+2B→PでA0.0800 mol、B0.100 mol。Pのモル質量120.0 g/mol、純粋なPの実収量4.80 g。理論収量と収率は?
B/2 = 0.0500 molが上限。Pは0.0500 mol、理論質量6.000 g(表示6.00 g)。収率は4.80/6.000 × 100% = 80.0%です。
限定反応物の転化率100%なら、目的物の収率も100%と断言できる?
断言できません。転化率は反応物の消費を見る割合です。目的物以外へ進む反応や回収損失があれば、純粋な目的物の実収量は理論量に届きません。
出典と次の学習
限定反応物・理論収量・百分率収率:OpenStax Chemistry 2e §4.4「Reaction Yields」。転化率の分母は、国内の研究資料でも初期の反応物量として明示されています(東京工業大学の研究説明・表1脚注)。この資料の収率は機器分析で求めた生成量を基にしており、本記事の純粋な目的物の回収量を基にする収率とは、測る段階が異なります。反応進行度は係数と各物質量の変化を共通に表す量です。本記事のセット図・投入量・収支・確認問題は、指定した反応モデルから作成しました。単位を打ち消す方法と最後に丸める理由は、次の記事「単位と有効数字」で詳しく扱います。

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