一つの配位子を二金属で分ける―生成定数比100でも錯体比10になる理由

分析化学
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二つの金属A、Bをそれぞれ1.00 mM、共有する配位子Lを全量1.010 mMになるように混ぜます。AとLの錯体AL、BとLの錯体BLは、それぞれ何mMできるでしょうか。

答えは、ALが約0.909091 mM、BLが約0.090909 mMです。この量を求める鍵は、両方に共通する自由なLの濃度。これを未知数にすると、金属A・Bの平衡と、有限のLの総量を一緒に満たす解を探せます。

1.与件の全量と、求める自由Lを分ける

同じ温度・溶媒条件の教材モデルとして、金属を含む種はA、AL、B、BLの四つ、配位子を含む種はL、AL、BLの三つだけとします。Lは中性の一座配位子です。A、BはLに結合していない金属種の略記で、水和した水分子を省きます。Aの電荷をzA+、BをzB+とすれば、ALはzA+、BLはzB+です。

ほかの錯体やLの酸塩基反応、金属の加水分解・沈殿は含めません。角括弧は各化学種の平衡濃度です。KA,c、KB,cはこの一定条件で濃度から定義した定数で、単位はL/molです。無次元の熱力学的平衡定数とは区別します。

A + L ⇌ AL、KA,c = [AL]/([A][L]) = 1.00×106 L/mol
B + L ⇌ BL、KB,c = [BL]/([B][L]) = 1.00×104 L/mol
各全金属 CA = CB = 1.00 mM
全配位子 CL,T = 1.010 mM
自由Lを l = [L] と置く。1 mM = 10−3 mol/L。

Lの総量1.010 mMは自由L濃度ではありません。ALへ入ったLもBLへ入ったLも、この総量から供給されます。数値は混合後の同じ最終体積に対する教材用与件です。

2.自由Lが決まれば、二つの錯体の量も決まる

自由Lをlと仮定すると、平衡式から[AL] = KA,cl[A]です。金属Aの収支CA = [A]+[AL]へ入れると、自由AとALの濃度が求まります。Bも同じ手順ですが、使うlは同じ値です。

[A] = CA1+KA,cl
[AL] = CAKA,cl1+KA,cl
[B] = CB1+KB,cl
[BL] = CBKB,cl1+KB,cl

KA,cl、KB,clは、自由金属に対する錯体の比です。L/molとmol/Lを掛けて単位が消えます。ここから数値計算をmMで行うため、KA,c = 1000 L/mmol、KB,c = 10 L/mmolへ換算します。1 mol = 1000 mmolなので、L/molの数値を1000で割ります。

たとえば自由Lを増やすと、両金属とも錯体へ入る割合が増えます。ただし、自由Lへどの値を入れるかはまだ決まっていません。次に、Lの全量を数える式を使います。

3.Lの収支を満たす自由Lを、範囲を狭めて決める

ALにもBLにもLは一つ入っています。したがって、自由なL、ALに入ったL、BLに入ったLを一度ずつ足すと、与件の全L1.010 mMになるはずです。

CL,T = l + [AL] + [BL]

F(l) = l + CAKA,cl/(1+KA,cl)
    + CBKB,cl/(1+KB,cl)

解く式:F(l) = 1.010 mM

F(l)は「その自由Lを保って、指定した二つの平衡と金属総量を満たすために必要な総L」です。候補のlからAL、BLを順に計算して足せば、F(l)が出ます。lを増やすと、自由Lそのものも両錯体中のLも増えるので、F(l)は単調に増加します。総量へ一致するlは一つだけです。

まず範囲を決めます。l=0なら両錯体も0なのでF(0)=0。反対に自由Lだけで1.010 mMとすると、錯体中のLも加わってF(1.010 mM)>1.010 mMです。よって解は0と1.010 mMの間にあります。

二分法では、この範囲の真ん中を試します。必要量Fが1.010 mMより大きければ、自由Lの候補も大きすぎるので上端を下げます。Fが小さければ下端を上げます。真ん中を計算するたび、解を含む範囲の幅が半分になります。

最初の候補:l = (0+1.010)/2 = 0.505 mM
[AL] = 505/506 ≈ 0.998024 mM
[BL] = 5.05/6.05 ≈ 0.834711 mM
F = 0.505+0.998024+0.834711 ≈ 2.337734 mM
必要量が大きい → 次は 0から0.505 mMの真ん中を試す。

同じ操作を繰り返した結果の一部が次の表です。表の小数は表示用に丸め、次の計算には丸める前の値を使っています。Fと比べる与件は毎回1.010 mMです。

試したl
(mM)
必要な総L F
(mM)
判定
1回目
0.505000000
2.337734459大きい
2回目
0.252500000
1.964867284大きい
3回目
0.126250000
1.676402504大きい
7回目
0.007890625
0.968548002小さい
8回目
0.011835938
1.039762711大きい
16回目
0.010001984
1.010034768大きい
24回目
0.009999997
1.009999948小さい
25回目
0.010000027
1.010000475大きい

25回後に解を含む範囲は、約0.0099999970から0.0100000271 mMです。幅は約3.01×10−8 mMまで狭まり、自由Lはl = 0.0100 mMと読めます。この教材の数値では、0.0100 mMを代入すると分数で正確に一致することも、次節で確かめられます。

自由L候補lに対して必要総L F(l)は単調に増加。与件1.010mMの水平線との交点はl0.0100mM。横軸は自由Lの対数目盛りで時間ではない。
図1 曲線の各点は自由Lの候補から計算した必要総Lです。赤線より上なら候補を下げ、下なら上げます。交点を探す操作が、自由Lを決める数値計算になります。

4.求めた自由Lから、ALとBLを計算して検算する

求めた自由Lはl = 0.0100 mM = 0.0000100 mol/Lです。mol/Lへ戻して二つの生成定数を掛けると、錯体/自由金属の比は10と0.100になります。

KA,cl = 10、KB,cl = 0.100
[A] = 1.00/(1+10) = 1/11 ≈ 0.090909 mM
[AL] = 10/11 ≈ 0.909091 mM
[B] = 1.00/(1+0.100) = 10/11 ≈ 0.909091 mM
[BL] = 1/11 ≈ 0.090909 mM
共有する自由L0.0100mMで、Aは自由0.090909とAL0.909091、Bは自由0.909091とBL0.090909mM。各行の金属合計1.00mM。
図2|二つの棒は金属ごとの総量1.00 mMです。灰色が自由金属、青または橙が錯体中の金属。AL・BLはそれぞれLを一つ含むので、次に結合Lの量として数え直します。
ペンタ

AにもBにも同じ自由Lを入れると、Lを二重に使ったことにならない?

イコール

自由Lは、同じ溶液中に残った一つの濃度を二つの平衡式で参照しています。投入全量を各金属へ丸ごと割り当てているのではありません。

ペンタ

でもALへ使ったLとBLへ使ったLは、どちらも在庫から引くんだね?

イコール

はい。最後に自由L、AL中のL、BL中のLを一度ずつ足し、共有する全L1.010 mMに合うか検査します。

ALもBLも、錯体一つにつきLを一つ含みます。全Lは自由なLと二つの結合量の和です。

CL,T = l+[AL]+[BL]
求めた0.0100 mMで要求する総L
= 0.0100+10/11+1/11 = 1.010 mM
同じL総量1.010mMが、AL中0.909091、BL中0.090909、自由0.010000mMに分かれる。
図3|棒はLの共有在庫です。ALへ使ったLをB側でもう一度使いません。表示した小数は丸めていますが、10/11+1/11 = 1.000 mMなので、合計は正確に1.010 mMです。

求めた値はLの総量にも合います。生成定数へmol/Lで戻すと、次の比が指定の値になります。

KA,c = [AL]/([A]l)
= (0.001×10/11)/{(0.001×1/11)×0.0000100} = 1.00×106 L/mol
KB,c = [BL]/([B]l)
= (0.001×1/11)/{(0.001×10/11)×0.0000100} = 1.00×104 L/mol

金属Aは0.090909+0.909091=1.000000 mM、金属Bも0.909091+0.090909=1.000000 mMです。Lは10/11+1/11+0.0100=1.010 mM。さらに二つの生成定数も戻ったので、二つの金属収支・L収支・平衡式を同時に満たす組成が求まりました。

もう一歩:三つの候補が要求するLを比べる

同じ全金属と定数のまま、l = 0.001 mM、0.010 mM、0.100 mMを順に試します。各候補から作った金属組成は、その候補lに対して金属収支と二つの平衡式を満たします。それでも、必要な総Lが与件1.010 mMに合わなければ採用できません。

l = 0.001 mM:AL = 0.500、BL ≈ 0.009901 mM
必要な総L ≈ 0.001+0.500+0.009901 = 0.510901 mM
l = 0.010 mM:AL ≈ 0.909091、BL ≈ 0.090909 mM
必要な総L = 1.010000 mM
l = 0.100 mM:AL ≈ 0.990099、BL = 0.500 mM
必要な総L ≈ 0.100+0.990099+0.500 = 1.590099 mM
三つの自由L候補について、必要な総Lは0.510901、1.010000、1.590099mM。与えられた1.010mMの赤線と一致する候補は0.010mM。
図4|棒はAL中、BL中、自由なLを同じ濃度尺度で足したものです。赤線より短い候補は用意したLを数え切れず、長い候補は用意した量以上のLを要求します。一致する中央の候補を採用します。

0.001 mMの案は必要量が小さいので、総量1.010 mMのうち約0.499099 mMのLが、モデルに含めたどの種にも数えられていません。余りを自由Lへ追加すればl = 0.001 mMという仮定が変わり、錯体濃度も変わります。0.100 mMの案は逆に約0.580099 mM分のLが不足します。

ペンタ

必要なLが少ない0.001 mMの案は、試薬の節約にならないの?

イコール

ここでは投入総Lが1.010 mMと固定されています。その案は全量の一部を数え忘れているので、この溶液の組成として使えません。投入量を変える設計問題なら別の試料です。

ペンタ

余ったLを自由なLとして足すだけで直せる?

イコール

自由Lが増えると二つの錯体も増えるので、全部を同時に決め直します。0.010 mMの候補では、その分配を含めて総量が一致します。

非負のlを増やすと、自由なLそのものも、両錯体の濃度K l C/(1+K l)も増えます。したがって必要総Lは単調に増え、同じ総量へ一致するlは一つです。二分法では、この単調性を使って解を含む範囲を狭めます。三つの候補の比較は、その増え方を確かめる例です。

5.求めた錯体比を、自由金属の比から説明する

二つの平衡式を割ると共有するlが消えますが、自由Aと自由Bの比は残ります。

[AL]/[BL] = (KA,c/KB,c)×([A]/[B])
= 100×(1/10) = 10

Aは多くがALへ入ったので、自由Aは自由Bの1/10に減っています。全金属濃度が等しくても、自由金属濃度は等しくありません。定数比100だけを錯体比へ置き換えると、この違いを落とします。

ペンタ

Aの定数が100倍なのに、ALはBLの10倍しかないのは矛盾?

イコール

定数比に、自由Aと自由Bの比も掛かります。Aがよく結びつくほど自由Aは減り、ここでは1/10になるので、錯体比は100×1/10 = 10です。

ペンタ

ではAがLを全部取ったと言ってはいけない?

イコール

はい。AL中のLは約0.909091 mMですが、BL中にも約0.090909 mMあり、自由にも0.0100 mM残ります。強い方が多く取ることと、全量を取ることを分けます。

6.候補検査と、別試料を自分で確かめる

問1 主例のl = 0.001 mM案では、AL = 0.500 mM、BL ≈ 0.009901 mMです。「平衡式と金属収支は合うから正解」と言えるでしょうか。

解答:言えません。Lの合計は約0.510901 mMで、与えられた1.010 mMに合いません。
余った約0.499099 mMを他の種へ割り当てるモデルでもないので、この候補を棄却します。

問2 同じ金属総濃度と定数で、自由Lが0.00500 mMの別試料を設計します。AL、BLと必要な総Lを求めてください。主例をそのまま薄めたという指定ではありません。

解答:KA,cl = 5、KB,cl = 0.0500
AL = 5/6 ≈ 0.833333 mM、BL = 0.05/1.05 = 1/21 ≈ 0.047619 mM
必要な総L = 0.00500+5/6+1/21 ≈ 0.885952 mM
錯体比 AL/BL = (5/6)/(1/21) = 17.5
自由A = 1/6、自由B = 20/21 mMなので、100×([A]/[B]) = 17.5とも一致します。

参考資料

自由な配位子濃度と錯化比の関係、二金属間の配位子交換を考える背景は、David Harvey『Analytical Chemistry 2.1』6.6、Ladder Diagrams for Complexation Equilibria。生成定数の式は6.4、Metal-Ligand Formation Constants、成分収支と候補の検査は6.7、A Systematic Approach to Solving Equilibrium Problemsを参照しました。原教材のEDTA交換近似・例題・図を複写せず、本稿の中性一座モデルと数値は独立に計算しています。

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