ゼロ点エネルギーを吸収する?―基底の高さと赤外線の準位差を分ける

分析化学
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角周波数がω=2.00×1014 rad/sの一つの調和振動モードを考えます。最も低い準位のエネルギーはいくらで、そこから一段上がる光には何J、何cm−1が必要でしょうか。最も低い状態に残るエネルギーを、そのまま吸収する光のエネルギーに使ってよいかを確かめます。

エネルギーの基準はポテンシャルの最小値0です。始状態をv=0、終状態をv=1として、0から測る高さE0と、二つの準位の間で測る差ΔEを分けて計算します。最後に、そのモードの双極子変化と始状態の占有から、計算した光がこの吸収の候補になる条件も判断します。

ペンタとイコールが本を開いて準位の問いを考える
高さを測る出発点と、遷移で測る二つの準位を、まず分けて考えましょう。

1.ポテンシャルの最小を0とする、一つの調和振動子

平衡位置からの変位をqとし、ポテンシャルをV(q)=kq2/2という二次式で近似します。q=0の最小値V=0をエネルギーの基準にします。回転や他の振動モードは加えず、この一つのモードを扱います。

角周波数ω = 2.00×1014 rad/s。
Ev = ħω(v+1/2)、v = 0,1,2,…。
ħ = h/(2π)、h = 6.62607015×10−34 J s。

vは振動の量子数で、周波数ν(ニュー)とは別の記号です。以下のエネルギーはこの振動子一つ当たりのJで、J/molではありません。radは角度を表す記号で、一周2π radを一回の振動へ直すときに2πが現れます。

2.v=0でも高さは残る。隣の準位への差はその二倍

まずħ=h/(2π)≈1.0545718×10−34 J sを求め、与えられたωを掛けます。ħω≈2.1091436×10−20 Jで、これが準位の共通の間隔です。v=0なら(v+1/2)=1/2、v=1なら3/2、v=2なら5/2を掛けるため、次の高さになります。計算途中では桁を残し、図と結果では近似値を表示します。

E0 = ħω/2 ≈ 1.055×10−20 J。
E1 = 3ħω/2 ≈ 3.164×10−20 J。
E2 = 5ħω/2 ≈ 5.273×10−20 J。
ポテンシャル最小0から基底準位までの高さと、基底から第一励起準位までの二倍の差を示す
図1|茶色のE0は0からv=0まで、青いΔEはv=0からv=1までです。線の高さは同じ数値例のエネルギーを表します。下の0線は基準で、遷移先になる振動準位ではありません。

E0がゼロ点エネルギーです。0→1の振動吸収では、ポテンシャルの底からではなく、すでにE0にいる振動子をE1へ上げます。差を引くと1/2の項は消えます。

吸収で振動子が受け取るエネルギーは終状態−始状態です。今回のΔEは正で、(3.1637154−1.0545718)×10−20≈2.109×10−20 Jになります。高さE0ではなく差を選ぶ理由は、光を受け取る前からE0を持っているからです。J sに一秒当たりの角振動ωを掛けると、エネルギーの単位Jになります。

ΔE = E1−E0 = (3/2−1/2)ħω = ħω
≈ 2.109×10−20 J = 2E0。
一般にもEv+1−Ev = ħω。
ペンタ

最も低い状態に1.055×10⁻²⁰ Jあるなら、その分の光を吸収すれば上がれる?

イコール

次の準位は3.164×10⁻²⁰ Jです。今の高さを引いた2.109×10⁻²⁰ Jが必要で、E0そのものの二倍になります。

ペンタ

v=1からv=2へ上がるときも、下の高さを引くから同じ差?

イコール

この調和模型では等間隔なので同じħωです。準位の高さは増えても、一段上がる差は変わりません。

3.ωをνへ直す。光のエネルギーhνが準位差に一致する

一周2π radなので、角周波数を2πで割ると一秒当たりの振動回数νになります。今回吸収する光に使うエネルギーはΔEです。

ν = ω/(2π) = 2.00×1014/(2π)
≈ 3.183×1013 Hz。
hν = hω/(2π) = ħω = ΔE。
光速c = 2.99792458×1010 cm/s。
波数ν̃ = ν/c ≈ 1062 cm−1。
角周波数を2πで割りHzへ、準位差hνと1062cm逆数へつなぐ。E0を使う誤りでは半分になる
図2|同じ準位差をJ、Hz、cm⁻¹で表しています。E0を光のエネルギーとして換算すると約531 cm⁻¹となり、必要な差の半分です。

Hzはs−1なので、Hzをcm/sで割るとcm−1になります。波数のcm−1は、光が1 cmに何周期分あるかを表す単位です。エネルギーを直接cmで測るのではなく、光速cで周波数へ、さらにhで光のエネルギーへ換算します。

これで主問の答えは、E0≈1.055×10−20 J、吸収に必要な正の差ΔE≈2.109×10−20 J、対応する波数は約1062 cm−1です。次に、波数から逆に計算して、同じ準位差と元の角周波数へ戻るかを確かめます。

検算には桁を残した波数ν̃≈1061.77 cm−1を使います。
ν=cν̃≈(2.99792458×1010 cm/s)×(1061.77 cm−1)≈3.183×1013 Hz。
ΔE=hcν̃≈(6.62607015×10−34 J s)×(2.99792458×1010 cm/s)×(1061.77 cm−1)≈2.109×10−20 J。
ω=2πcν̃≈2.00×1014 rad/s。

エネルギーへの換算では、J s×cm/s×cm−1でsとcmが消えてJが残ります。さらにE0+ΔE≈(1.055+2.109)×10−20=3.164×10−20 Jとなり、終状態E1にも戻れます。約1062という丸めた波数を使う場合は、逆算値にもその丸めの差が入ります。

波数1061.77cm逆数から周波数と正の準位差へ戻し、基底準位の高さと足して第一励起準位へ戻る検算
図3|波数からエネルギーへ戻す道筋です。周波数と角周波数は2πで結び付き、最後に「始状態の高さ+吸収した差=終状態の高さ」も確かめられます。数値は同じ例の近似値です。

4.約1062 cm⁻¹の光が、このモードで吸収される条件は?

ここで描くのは電気双極子による基本振動の吸収です。調和模型で双極子を変位に対して一次まで近似すると、当該モードの変位で双極子が変化する係数(dμ/dq)0が非ゼロなら、隣接準位の遷移双極子が非ゼロになり得ます。この条件をIR活性と呼びます。

0→1の吸収では、さらに始状態v=0に振動子がいることが必要です。空の始状態からは、その遷移で光を吸収する振動子がありません。入射光が準位差に合うという条件と、活性・占有を合わせて確認します。

主問の波数が求まっても、その値だけで吸収線が出るとは決めません。この数値例で約1062 cm−1の光を入れたとき、v=0が占有され、かつ当該モードがIR活性なら0→1の吸収候補です。双極子変化がゼロなら、この一次近似の基本振動では候補にならず、v=0が空ならそこから吸収する振動子がいません。図4では、光のエネルギーを同じにしたまま、この二条件を分けて比較します。

エネルギー差に合う光のもと、双極子変化と始状態占有の有無で0から1の吸収を区別する三条件図
図4|Aは活性と占有がそろった吸収候補です。Bは双極子変化がゼロ、Cは始状態が空です。同じ準位差でも、この0→1吸収の有無は同じになりません。

永久双極子の値だけを見て、あらゆる分子の振動モードを一律に判断しません。ここで調べるのはそのモードで変わる双極子です。また、光の偏光・試料の向きや占有数などで強度は変わるため、今回の与件だけでピークの強さを数値化しません。

5.もう一歩:残るE0から、光を出し続けられるか

孤立した調和振動子が基底状態v=0にいるとき、それより低い振動準位はありません。ポテンシャル最小の0は準位ではないので、E0を放出して0へ落ちるという矢印は描けません。ゼロ点エネルギーがあることから、光を連続放射するとは言えません。

ペンタ

E0が残っているなら、それを光にして出し続けられる?

イコール

基底状態には下へ落ちる振動準位がありません。図の0はポテンシャルの基準であって、次の状態ではありません。E0を放出し続ける根拠にはなりません。

ペンタ

では、上のv=1にいる場合の放出は別の話?

イコール

別です。下のv=0へ移るなら差はħωで、許容条件を満たす遷移として光とのやり取りを考えられます。基底にエネルギーがあることと、下向きの遷移先があることを分けます。

6.高さ・差・条件を選ぶ二つの小問

問1 同じモードのv=1→2の吸収に必要なエネルギーと波数はいくらですか。IR活性だがv=1の占有がゼロなら、この吸収線は出ますか。

解答:E2−E1=ħω≈2.109×10−20 J、約1062 cm−1。
始状態v=1が空なら、この1→2の吸収は出ません。
許容される準位差があることと、吸収する振動子がいることは別です。

問2 角周波数だけを1.00×1014 rad/sへ半分にした別の調和模型では、E0と一段の差ΔEは? 約531 cm−1は今度は何を表しますか。

解答:E0≈5.273×10−21 J、ΔE≈1.055×10−20 J。
周波数・波数も半分なので、約531 cm−1はこの別模型の一段の差に合う光です。
同じ531という値でも、最初の模型のE0を誤用した換算とは条件が違います。

参考資料

調和振動子の準位と双極子変化による基本振動の選択条件はMIT 5.61 Lecture 8, pp.4–5, 8–9、エネルギー一致・遷移双極子・始状態はMIT 5.61 Lecture 19, pp.2, 5–7を参照しました。OpenStax University Physics 9.2, Eqs.9.11–9.13とも準位式を照合しています。

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