各フラスコへ元試料を5.00 mLずつ取り、濃度10.0 mMの標準液を異なる量だけ加え、すべて最終25.00 mLにそろえました。背景を差し引いた信号の直線はS=(0.750 L/mmol)x+0.300です。xが最終フラスコ中の添加濃度を表すとき、元試料中の対象成分の濃度はいくつでしょうか。
答えは2.00 mMです。まず横切片−0.400 mMを求め、その絶対値を希釈後の試料由来濃度と読みます。最後に25/5の希釈を戻します。負の符号を戻す操作と、元試料の濃度へ戻す操作を分けて追いましょう。
元試料から取る体積 V0=5.00 mL、元試料濃度 C0は未知
添加する標準液:Cs=10.0 mmol/L(mM)、添加体積Vsを変える
各フラスコの最終体積 Vf=25.00 mL
横軸 x=CsVs/Vf(最終体積で割った添加濃度、mM)
信号Sは無次元。求めるのは希釈前のC0です。

1.元試料、標準液、最終フラスコの量を区別する
元試料から5.00 mLを取ると、そこに含まれる対象成分の量はC0V0です。標準液から加える量CsVsとは別に数えます。標準液の量を変えた後も、すべて同じ25.00 mLにそろえるので、元試料由来の濃度は一定のまま、添加由来の濃度だけが変わります。
横軸xは標準液から加えた成分の量/最終体積です。Vsは添加液の体積、V0は元試料の分取体積、Vfは両方を含む最終体積、と役割を区別します。
たとえばCs = 10.0 mmol/L(mM)の標準液を1.00 mL加えたなら、x = 10.0×1.00/25.00 = 0.400 mM。VsとVfを同じmLで割るので体積の単位は消え、濃度の単位が残ります。加えた量をLで計算しても、10.0 mmol/L×0.00100 L = 0.0100 mmol、それを0.02500 Lで割って0.400 mmol/Lです。

2.同じ希釈の中で、試料由来と添加由来を足す
どのフラスコにも、元試料由来の成分が同じ量C0V0だけ入っています。最終体積も同じなので、その濃度はC0V0/Vfで一定です。それに添加由来の濃度xを足すと、測定液中の全濃度になります。
S = k(C0V0Vf + x)
ここでSは無次元の信号、kはL/mmolを単位とする感度です。空試験の背景信号は差し引き済みとし、試料由来と添加した成分が同じ応答を示すとします。また、系列の全フラスコで、濃度と信号が比例する同じ感度kが保たれる範囲を使います。試料中の他成分(マトリクス)による感度への影響も、この系列で共通とする条件です。
今回の系列から、S = (0.750 L/mmol)x+0.300という直線が得られました。傾き0.750 L/mmolに添加濃度を掛けると無次元の信号になり、縦切片0.300は添加なしの試料由来の信号です。最終25.00 mLを一定にしたので、標準液を増やしても元試料由来の濃度がさらに薄まる系列ではありません。
ペンタ標準液を加える量が増えたら、元の試料はそのぶん薄まるのでは?
イコール加えた後の最終体積を、どれも25.00 mLへそろえています。元試料5.00 mLの割合はどれも5/25だから、試料由来の濃度は同じです。
ペンタだったら、この直線で増えていく部分は、標準液から加わった濃度だけ?
イコールそうです。この定容系列では、試料由来の一定分に添加濃度xを足しています。同じ感度なら、xが増える分だけ信号が直線的に増えます。
3.横切片を求め、希釈後の試料由来濃度を読む

横切片をx0と書き、S = 0を直線へ代入します。符号も単位も、そのまま追いましょう。
x0 = −0.3000.750 L/mmol = −0.400 mmol/L
同じ操作をS = k(C0V0/Vf+x)へ行うと、0 = k(C0V0/Vf+x0)。kが0でないので、中の和が0になる位置はx0 = −C0V0/Vfです。したがって切片の絶対値0.400 mMは、希釈後に元試料から来た濃度です。元試料の濃度そのものではありません。
ペンタ横切片がマイナスなら、試料の濃度も負ということ?
イコール負の濃度を測ったのではありません。測定した直線を左へ延ばし、試料由来の信号を打ち消す計算上の位置が負になります。その絶対値が、希釈後の試料由来の濃度です。
ペンタじゃあ、0.400 mMを元試料の濃度と答えるのも、まだ早い?
イコールそうです。元試料5.00 mLを25.00 mLへ薄めた後の0.400 mMだから、元へ戻すには25/5を掛けます。次の段で2.00 mMになります。
4.希釈を戻し、成分の量で検算する

体積比25/5は無次元なので、濃度の単位mMは変わりません。量でも、2.00 mmol/L×0.00500 L = 0.0100 mmol、0.400 mmol/L×0.02500 L = 0.0100 mmolと一致します。添加した標準由来の量ではなく、元試料から来た量だけをこの検算で比べています。
次に、標準液を1.00 mL加えたフラスコへ、求めたC0=2.00 mMを戻します。元試料由来は0.0100 mmol、標準液由来も10.0 mmol/L×0.00100 L=0.0100 mmolです。両方を合わせた0.0200 mmolを最終0.02500 Lで割るので、測定液中の全濃度は0.800 mMになります。
添加由来濃度 x = (10.0 mM)×(1.00/25.00) = 0.400 mM
全濃度 = 0.400+0.400 = 0.800 mM
S = (0.750 L/mmol)×(0.800 mmol/L) = 0.600
直線でも S = (0.750 L/mmol)×(0.400 mmol/L)+0.300 = 0.600

このフラスコの信号から確かめるなら、まずS/k=0.600/0.750=0.800 mMで全濃度へ戻し、添加濃度x=0.400 mMを差し引きます。その後に希釈を戻せば、(0.800−0.400)×25.00/5.00=2.00 mMです。添加分の補正をせずに0.800×5とすると4.00 mMになり、標準液から加えた分まで元試料に含めてしまいます。
5.切片を濃度として読める条件を確かめる
背景信号が一定でも未補正なら、それは縦切片へ加算され、横切片から求めた濃度がずれます。また、添加でマトリクスや化学種の状態が変わり感度が変化する場合は、共通のkとしてくくれません。負切片を読む前に、背景補正と系列の直線性・共通感度を確認するのは、この導出を成立させるためです。
同じ最終体積にするのは、元試料由来の濃度を一定に保つためです。同じ感度を使うのは、試料由来と添加由来を足した全濃度へ同じkを掛けるためです。標準液の添加で他成分の組成や化学種の状態が変わるなら、系列を同じ体積にしただけでは感度一定と判断できません。背景補正、比例する範囲、試料由来と添加由来の応答の一致を、この計算に対応させて確認します。
6.もう一歩:横軸が添加体積なら単位も変わる
同じデータを、xではなく添加体積Vs(mL)に対して描くこともできます。今回Cs = 10.0 mMなので、−0.400 mMに対応する体積は−0.400×25.00/10.0 = −1.00 mL。その体積切片をVs,0とするとC0 = −CsVs,0/V0 = 2.00 mMです。濃度軸の−0.400と体積軸の−1.00は、同じ系列の別の表し方。式へ入れる前に、横軸名と単位を読みます。
7.自分で確かめる:別試料の切片から濃度へ
別の試料も各5.00 mLを最終25.00 mLへそろえました。横軸xは最終フラスコ基準の添加濃度、背景補正と共通感度の条件は同じです。直線S = (0.750 L/mmol)x+0.180から、①横切片、②元試料の濃度を求めてください。
解答 ①S = 0よりx0 = −0.180/0.750 = −0.240 mM。②C0 = 0.240×25.00/5.00 = 1.20 mM。0.240 mMは希釈後の元試料由来の濃度で、元試料はその5倍です。負切片の絶対値を取っただけでは、希釈前へ戻っていません。


コメント