一対の鏡像体R体とS体だけを溶かした溶液が50.0 mLあります。旋光計で+0.720°と測定されたとき、R体とS体はそれぞれ何%、何g含まれるでしょうか。同じ測定条件の純R体の比旋光度を参照し、符号付きの過剰率から組成と質量へ進みます。
観測旋光度 αobs = +0.720°
光路長 l = 1.50 dm
R体とS体の合計質量濃度 c = 0.0200 g/mL
溶液の体積 V = 50.0 mL(調製後の溶液全体)
純R体の比旋光度 [α]R = +40.0 deg mL g−1 dm−1
純体参照と混合液:25.0 °C、波長589 nm、同じ無旋光性の溶媒。溶媒・セルの背景は補正済み。
この濃度域では純体の比旋光度は一定で、R/Sの寄与は濃度に比例して足し合わさる。溶質はこの一対のR/Sのみ。
求める量:混合液の比旋光度、R基準の符号付きee、R/Sの組成と各質量。
与件は架空の鏡像体に対する教材用の値です。答えは比旋光度+24.0、R基準のeeが+0.600、R体80.0%・0.800 g、S体20.0%・0.200 g。まず角度を光路長と全濃度で割り、純品の値と同じ種類の量へそろえます。

1.鏡像体と旋光度:R/Sと+/−は別の名前
鏡に映した関係にあり、重ね合わせられない一対の立体異性体を鏡像体(エナンチオマー)と呼びます。RとSは立体配置を表す記号です。一方、旋光度αは、ある方向に偏った光(平面偏光)が試料を通ったとき、偏光面が回った角度を表します。+と−は、その旋光の向きを表す符号です。
Rなら必ず+、Sなら必ず−という一般的な対応はありません。同じ温度・溶媒・測定波長で比べた純粋な一対の鏡像体は、比旋光度が同じ大きさで逆符号になります。今回は純R体の比旋光度が+40.0 deg mL g−1 dm−1と与えます。したがって、この例の純S体は−40.0です。これから使うRと+の対応は、この与件によるものです。
今回の純体参照と混合液は同じ温度・溶媒・波長で測る条件です。与えた濃度域で比旋光度を一定として、RとSの寄与を濃度に比例させて足します。この条件を使って、次節の比旋光度を純R体の+40.0と比較します。全濃度c=0.0200 g/mLはRとSの合計で、どちらか一方の濃度ではありません。
| 量 | 与件 | 何を表すか |
|---|---|---|
| 純R体の比旋光度 | +40.0 deg mL g⁻¹ dm⁻¹ | 単位光路長・単位濃度で規格化した純体の値 |
| 光路長 l | 1.50 dm | 偏光が試料溶液を通る長さ |
| 全濃度 c | 0.0200 g/mL | cR+cS。Rだけの濃度ではない |
| 観測旋光度 αobs | +0.720° | この光路長・濃度で測った角度 |
2.角度を全濃度で割り、混合液の比旋光度へ
濃度cをg/mL、光路長lをdmで表す規約では、比旋光度は[α] = α/(lc)です。ここではdegと°はどちらも角度の度を意味します。αの単位degを、dm×g/mLで割るので、比旋光度の単位はdeg mL g−1 dm−1になります。混合液には全濃度cR+cSを使います。
= +0.720 /(1.50×0.0200)
= +24.0 deg mL g−1 dm−1

ペンタ測った角度が+なら、いつでもR体が多いと言える?
イコールR/Sと旋光の符号に一般的な対応はありません。今回は純R体が+40.0、純S体が−40.0と分かっているので、この二成分の条件なら+はR体の寄与が大きいことを表します。
ペンタ同じ混合液でも光路を長くすれば、角度は大きくなるんだね。組成は変わらないのに?
イコールそうです。濃度に比例するこの条件では角度は光路長にも比例します。だから角度そのものではなく、αを光路長と全濃度で割った比旋光度を純体の値と比べます。
純品参照を、同じ光路長と全濃度の角度へ戻しても比べられます。この条件でR体だけならαR,ref = +40.0×1.50×0.0200 = +1.20°。混合液の+0.720°は、その+1.20°の0.600倍です。次に、この比が「R体の割合そのもの」ではなく「R体とS体の割合の差」になる理由を確かめます。
3.過剰率60%から、R体80%・S体20%へ
濃度をcR、cSとすると、観測角は純R体の寄与と純S体の寄与の和です。この例では純体の値が+40.0と−40.0なので、αobs = 40.0 l(cR−cS)。全濃度で規格化すると、混合液と純R体の比は次の濃度差/全濃度になります。
ここでは eeR ≡(cR−cS)/(cR+cS)と符号を定める。
eeR = +24.0 / +40.0 = +0.600
このeeRはR体を基準にした符号付きの過剰率です。+はR体が多いことを表します。過剰率の大きさを百分率で言えば、鏡像体過剰率ee = |eeR|×100% = 60.0%(R体過剰)です。60%はR体そのものの割合ではなく、R体とS体の割合の差です。
全体に占める割合をfR = cR/c、fS = cS/cとします。同じ分子量の鏡像体同士なので、この質量で求めた割合は物質量の割合とも一致します。二成分だけなら和は1、差は+0.600です。
二つの式を足すと 2fR = 1.600
fR = 0.800(80.0%)、fS = 0.200(20.0%)

ペンタeeが60%なら、R体60%・S体40%ではないの?
イコールその組成の差は60−40で20%です。ee60%は差が60ポイントということです。全体100%という和も使うと、R80%とS20%になります。
ペンタR80%のうち、S20%と同じ分だけ反対の旋光が打ち消し合って、差の60%が残ると考えられるね?
イコールこの線形な二成分モデルではその読み方でよいです。混合液の比旋光度は純R体の60%なので、+40.0×0.600 = +24.0になります。物質が60%に減ったのではなく、旋光への符号付き寄与の差を読んでいます。
4.50.0 mLに含まれる各質量を求め、観測角へ戻す
組成を全濃度へ掛けると、cR = 0.800×0.0200 = 0.0160 g/mL、cS = 0.200×0.0200 = 0.00400 g/mLです。和は0.0200 g/mL、差は0.0120 g/mL。全濃度と差の濃度は違う量です。
この濃度は1 mLあたりのR体・S体の質量です。溶液50.0 mLに含まれる質量は、各濃度に同じ溶液体積を掛けて求めます。単位は(g/mL)×mL=gになります。
= (0.0160 g/mL)×(50.0 mL) = 0.800 g
S体の質量:mS = cSV
= (0.00400 g/mL)×(50.0 mL) = 0.200 g
R/S合計:mR+mS = cV = 1.00 g

0.800+0.200=1.00 gで、全濃度から求めたR/S合計と一致します。差を合計で割っても(0.800−0.200)/1.00=+0.600とeeRへ戻ります。ここでの合計質量はR体とS体の溶質質量です。溶媒まで含めた溶液の質量ではありません。
次に、求めた各濃度から旋光への寄与を計算し、最初の角度へ戻します。
S体の寄与:−40.0×1.50×0.00400 = −0.240°
和:+0.960−0.240 = +0.720°

差の濃度を使って40.0×1.50×0.0120 = 0.720°と計算しても同じです。一方、混合液の比旋光度を出すときにαをl×0.0120で割ると+40.0になり、それは純R体の係数を戻した値です。混合液の値+24.0を求める分母は、あくまで全濃度0.0200 g/mLです。
5.純品参照と比べて、条件を確かめる
同じ光路長と全濃度なら、純R体+1.20°から純S体−1.20°までが、この二成分の比例モデルでとれる範囲です。今回の+0.720°はその間にあり、eeR=+0.600からR/Sの両割合が0から1に収まります。もし参照の絶対値1.20°を超えていたら、比から割合を計算する前に、全濃度・光路長・純品参照と測定条件の対応を確認します。
「和が1、差がee」という組成計算は、全濃度の中身がこの一対のR/Sだけであることを使っています。旋光しない第三の物質などを全濃度へ含めたら、RとSの割合の和は1ではなくなり、旋光度だけから二つの割合をこの形で求められません。また、今回の比例・加算モデルと、純体と混合液で同じ測定条件・応答を使えることも必要です。
RとSを同じ濃度にすれば、二つの寄与は打ち消し合い、このモデルでは旋光度0です。0という観測値だけで、分子そのものが鏡像体を持たないと決めることはできません。R/Sの等量混合でも0になるからです。
6.自分で確かめる:観測角が−0.360°なら
純R体+40.0、純S体−40.0、l = 1.50 dm、全濃度0.0200 g/mL、同じ温度・溶媒・波長と二成分線形モデルを保ちます。別の混合液50.0 mLの観測旋光度が−0.360°でした。①混合液の比旋光度、②符号付きeeRと過剰率の大きさ、③R/Sの割合を求め、④二つの寄与の和で検算し、⑤R体とS体の各質量を求めてください。
解答 ①−0.360/(1.50×0.0200)= −12.0 deg mL g−1 dm−1。②eeR = −12.0/+40.0 = −0.300。大きさは30.0%、S体過剰です。③fR =(1−0.300)/2 = 0.350、fS = 0.650なのでR35.0%、S65.0%。④cR = 0.00700 g/mL、cS = 0.0130 g/mL。寄与は+40.0×1.50×0.00700 = +0.420°と−40.0×1.50×0.0130 = −0.780°、和は−0.360°です。負のeeRは、ここで定めたR基準でSが多いという意味です。⑤質量は各濃度に50.0 mLを掛け、R体(0.00700 g/mL)×50.0 mL=0.350 g、S体(0.0130 g/mL)×50.0 mL=0.650 gです。和1.00 gと、差を和で割った−0.300も検算できます。
主問は、観測角→光路長と全濃度で規格化→同条件の純R体と比較→差としてのee→和と差からR/S割合→濃度×体積で各質量、の順で解けました。質量の和は1.00 gへ、旋光寄与の和は+0.720°へ戻り、二つの量をそれぞれ検算できます。
参考資料
OpenStax Organic Chemistry §5.3:旋光度、光路長・濃度と比旋光度
Georgia Tech CHEM2311 §4:PDF pp.10–12、比旋光度の規約・測定条件・鏡像体過剰率


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