測定液中の対象成分Aと、濃度2.00 mMの内部標準ISを一緒に測り、信号SA=1.44、SIS=1.60を得ました。検量標準で求めた感度比はK=1.20です。両信号に同じ注入倍率が掛かるとき、測定液中のAの濃度はいくつでしょうか。
答えは1.50 mMです。信号をA/ISの順に割ると共通の注入倍率が消え、感度比で割ると濃度の比に戻ります。その後、回収率がAとISで異なる場合に、損失前の濃度を求めるには何が追加で必要かも確かめます。
測定液中のIS濃度 cIS=2.00 mmol/L(mM)
背景を差し引いた信号:Aは1.44、ISは1.60(ともに無次元)
感度比 K=kA/kIS=1.20(無次元)
この測定では、両信号が同じ正の倍率fで変わり、Kは検量標準と同じとします。

1.二つの信号に同じ倍率が掛かる式を立てる
対象成分をA、内部標準をISと書きます。ISはAとは別の成分で、Aの信号と分けて測れるものを使います。空試験の背景信号は差し引いた後とし、濃度に比例する範囲で考えます。感度kA、kISは、それぞれ「濃度が1だけ増えたら、信号がどれだけ増えるか」を表します。
同じ測定液の注入量が基準のf倍なら、AもISも注入される量がf倍になります。その範囲で信号も注入量に比例し、二つの感度の比Kが変わらなければ、両信号へ同じfを掛けて書けます。Aだけの感度変化などは、この共通倍率には含められません。
R = 対象Aの信号 SA内部標準の信号 SIS = kAkIS × 対象Aの濃度 cA内部標準の濃度 cIS
信号比の分子と分母には同じfがあるので、fが0でなければ約分できます。残るのは感度比Kと濃度比cA/cISです。信号比を取る理由は、この式で共通の倍率を取り除けるからです。
今回、信号Sは無次元、濃度はmmol/L(mM)です。kの単位はL/mmol。二つの感度の比K = kA/kISは無次元で、既知濃度の検量標準からK = 1.20と分かっています。これは、同じ濃度ならAの信号がISの1.20倍という意味です。
2.測った二つの信号から、Aの濃度まで戻す
まずR=1.44/1.60=0.900です。これはAの信号/ISの信号で、まだ濃度の比ではありません。R/K=0.900/1.20=0.750がAの濃度/ISの濃度です。AはISの0.750倍なので、ISの2.00 mMに掛けます。

3.求めた値を戻し、共通倍率の意味を確かめる
求めた1.50 mMを、信号の式へ戻して検算します。この検算用に感度kA = 1.20 L/mmol、kIS = 1.00 L/mmolと置けば、Aが1.50 mMで信号1.80、ISが2.00 mMで信号2.00。比は1.80/2.00 = 0.900です。
同じ測定液を一緒に注入し、両信号に注入因子f = 0.80が掛かったとします。Aは1.44、ISは1.60になり、個々の信号は20%小さくなります。しかし比では、分数の上側と下側の0.80を約分できます。

ペンタAの信号が1.80から1.44へ減ったら、濃度も20%低いと読んでよい?
イコールISも2.00から1.60へ同じ20%減っています。A/ISはどちらも0.900だから、共通の注入因子は比から消えます。
ペンタでは、注入倍率fの値が分からなくても、Aの濃度を求められる?
イコール同じfが掛かるモデルなら求められます。測った比0.900を感度比1.20で割り、ISの2.00 mMに掛ければ1.50 mMになります。違う割合で減る場合は、その違いが比に残るので次に見ましょう。
4.損失前へ戻すには、回収率の比も必要になる
次は、内部標準を前処理の回収過程より前に加えた場合です。cA = 1.50 mMとcIS = 2.00 mMを損失前の濃度とし、前後を同じ液量の基準で比べます。対象Aの回収率rA = 0.70、ISの回収率rIS = 0.90とします。回収率は、元の量のうち測定液へ残った割合です。
検量標準で決めた感度比K = 1.20に対し、この試料で異なる回収率が掛かる場合を考えます。両者の注入因子は同じ0.80でも、回収率は同じ数ではありません。
= 1.20 × 0.700.90 × 1.502.00 = 0.700
共通のfは消えても、回収率の比0.70/0.90=7/9が残ります。回収率の違いを無視し、損失前のIS濃度2.00 mMと測定比0.700をcISR/Kへ入れると、1.166… mMです。これは損失前のA濃度の推定を誤った値であり、回収後のA濃度0.70×1.50=1.05 mMとも別です。
損失前の濃度を求める式では、R/K=(rA/rIS)(cA/cIS)です。濃度比を取り出すには、残った回収率比でも割ります。ここでは回収率比が既知なので、次まで計算できます。

= 2.00 mM × (0.700/1.20) × (0.90/0.70)
= 1.50 mM
戻した値をR=K(rA/rIS)(cA/cIS)へ入れると、1.20×(0.70/0.90)×(1.50/2.00)=0.700で測定比と一致します。掛けた回収率比の逆数0.90/0.70は無次元なので、濃度の単位mMは変わりません。

回収率比が未知なら、信号比だけから損失前の濃度と回収率比の両方は決まりません。検量標準と試料で回収率比が一定なら、その比を含む検量係数を使えます。この例ではK×7/9=0.9333…を使い、2.00×0.700/0.9333…=1.50 mMです。試料ごとに比が変わる場合には、その一定係数での補正は成立しません。
ペンタ内部標準を先に入れても、Aが70%、ISが90%回収されるなら、感度比だけでは補正しきれない?
イコールこの試料の回収率比7/9が、検量標準の係数に反映されていなければ残ります。ISを入れるだけで同じ回収率になるわけではありません。
ペンタもし検量標準と試料で、いつも同じ7/9だったら?
イコールその一定の比は、実際に作った検量関係の係数へ含められます。でも試料ごとに回収率比が変われば、同じ係数では直せません。何が共通で、何が変わるのかを確かめる必要があります。
5.何を補正したいかで、加える時点と条件を選ぶ
回収過程の損失を追わせたいなら、ISもその過程を経験するように回収過程の前に加えます。回収が終わってからISを加えた場合、ISはそれ以前の損失を経験していません。その後の共通注入因子は比で消せても、前のAの損失を同じ因子として消すことはできません。
また、空試験由来の信号を差し引かずに、(f kAcA+背景A)/(f kIScIS+背景IS)を取っても、足し算された背景はfの約分では消えません。信号が重なって別々に読めない場合や、濃度に比例しない範囲でも、ここで使った比の式をそのまま使えません。濃度を求める前に、背景を差し引いた信号を別々に読めるか、濃度に比例する範囲か、検量標準と試料で感度比や回収率比が対応するかを確認します。
6.自分で確かめる:同じ回収率なら?
損失前のIS濃度は2.00 mM、感度比K = 1.20です。AとISへ共通の注入因子0.60と、共通の回収率0.75が掛かり、測定信号SA = 0.810、SIS = 0.900を得ました。①比Rと損失前のA濃度を求めてください。②回収率を知らなくても、この計算ができる理由は何でしょうか。
解答 ①R = 0.810/0.900 = 0.900、cA = 2.00×0.900/1.20 = 1.50 mM。②0.60×0.75が両信号に同じように掛かるので約分できます。消える理由は因子が共通だからで、回収率が常に1だからではありません。たとえばISにも損失があっても、Aと同じ割合なら比は保たれます。
参考資料
David Harvey, Analytical Chemistry 2.1 §5.3:Internal Standards(式5.12–5.13)

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