観測する水素核Hが、二つの水素核X・Yと8.00 Hzと3.00 Hzの結合定数Jを持っています。Hの分裂前の中心を0 Hzとすると、Hの信号はどこに何本現れ、どんな相対強度になるでしょうか。
弱結合の一次近似で計算すると、−5.5、−2.5、+2.5、+5.5 Hzの四本、強度は1:1:1:1です。Jの半分を左右へ足して端点を求めます。続いて、二つとも8.00 Hzなら、中央二本が重なって1:2:1になるところまで数えます。
H・X・Yはいずれもスピン1/2の水素核。観測するのはHの信号。
中心からの周波数差を0 Hz基準で表示。
主問:JHX = 8.00 Hz、JHY = 3.00 Hz。
比較問:JHX = JHY = 8.00 Hz。
弱結合の一次近似が成り立ち、異なる位置の線を分離して読める条件。線の位置と相対強度を求める。
1.線位置を計算する前に、一次近似の条件をそろえる
H、X、Yはいずれもスピン1/2の水素核を指すラベルです。XとYは元素記号ではありません。HはXともYとも結合し、ほかの核による分裂はない教材模型を考えます。
今回の分裂の足し算に使う条件は、一次近似が成り立つ弱結合です。結合している核どうしの共鳴周波数の差の絶対値が、それぞれのJの絶対値より十分大きい、という条件です。差ΔνもJもHzでそろえて比べます。たとえばJ = 8 Hzという値だけで判定するのではなく、結合相手との周波数差に対して十分小さいかを比べます。
0 HzはHの信号の中心を基準にした差で、装置の共鳴周波数がゼロという意味ではありません。横軸はこの差を小さい値から大きい値へ並べます。ここでは理想的な線の位置と相対強度を扱い、異なる位置の線を分離して読めるものとします。
2.Jを二で割り、四通りの線位置を求める
Jは二重線の二本の間隔です。中心から両側への移動はJ/2になります。まずXとの8 Hzの結合で、Hの一本を−4 Hzと+4 Hzへ分けます。次にYとの3 Hzの結合が、それぞれを±1.5 Hzだけ分けます。

一回目にできた二本が、それぞれもう一度二本になるので、二重の二重線(doublet of doublets、dd)です。弱結合の一次近似では四つの線は同強度です。Hの信号全体の重みを1とすると、各枝の1/2を二回掛け、各端点は1/4になります。
ペンタ8 Hzだから、中心から8 Hzずつ離すのではないの?
イコールそれだと二本の間隔が16 Hzになります。間隔8 Hzの二重線は、中心から−4 Hzと+4 Hzです。
ペンタその各一本に3 Hzの分裂を足すときも、中心からは半分の1.5 Hz?
イコールはい。−4±1.5と+4±1.5の四通りです。Jの全幅と、各枝の移動J/2を分けて数えます。
3.主問を完答し、線の間隔で検算する
四つの位置を小さい順に並べて、隣どうしの差を取ります。−2.5−(−5.5)=3、2.5−(−2.5)=5、5.5−2.5=3 Hzです。二重の二重線のすべての隣接間隔が、どちらかのJになるわけではありません。

外側二本の幅は11 Hzで、8+3に一致します。四線の平均位置は0、強度を足しても1です。分裂でHが四種類の水素に変わったのではなく、一つのHの信号が四本へ配分されています。
線位置:−5.5、−2.5、+2.5、+5.5 Hz。
各線の重み:1/4 → 相対強度1:1:1:1。
隣接間隔:3、5、3 Hz。外側二本の幅:11 Hz = 8+3 Hz。
重みの和:4×1/4 = 1。中心:(−5.5−2.5+2.5+5.5)/4 = 0 Hz。
4.比較問:Jが同じなら、同じ位置の強度を足す
次も弱結合の一次近似を使い、JHXだけでなくJHYも8.00 Hzと指定した別の教材条件を計算します。先ほどの±4 Hzへ、今度はさらに±4 Hzを足します。

ペンタ二つの0 Hzのうち一つを消して、三本を同じ強さにしたら?
イコール重なった信号も失われません。中央は1/4+1/4で1/2、両端は各1/4です。だから1:2:1になります。
ペンタその形なら、XとYは同じ環境の水素だと決められる?
イコールこの計算でそろえたのはHとのJ二つだけです。XとYの共鳴位置などはそろえていません。同じJによる見かけの三重線だけで、XとYの等価性までは決められません。
もう一歩:同じ形から何が分かるか。「等価な二つの隣接核ならn+1で三重線」という使い方と、「異なる核でも二つのJが同じなら端点が重なる」という使い方を区別します。実際に等価かどうかは、共鳴位置や他核との結合などの情報を含めて判断する別の問いです。
実際の周波数差|Δν|が|J|より十分大きくなくなると、強結合による高次効果で線位置や強度がこの一次近似からずれます。ここで数えた1:1:1:1や1:2:1を実スペクトルに使うときは、まず第1節の周波数差とJの条件を確認します。
四通りの端点:−8、0、0、+8 Hz。
異なる位置は3個。中央は1/4+1/4 = 1/2。
−8、0、+8 Hzの相対強度:1:2:1。
全重みは1/4+1/2+1/4 = 1。中央の二通りを捨てずに足す。
5.演習:別のJから端点と重みを求める
問1 同じ弱結合の模型でJHX=10.0 Hz、JHY=4.00 Hzなら、中心からの四線の位置と相対強度は? 隣接間隔も求めてください。
問2 JHX=JHY=6.00 Hzなら、何本の位置が残りますか。「三本だからXとYが等価」と言えますか。
参考資料
異なる結合定数による分裂木はOpenStax Organic Chemistry 13.8、三スピンの線位置と等しいJでの重なり、および弱結合の条件はJames Keeler, NMR and Energy Levels, Chapter 2 §2.5–2.6(pp.2–9〜2–14)を参照しました。この記事はHの四端点と重みの計算に絞っています。

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